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side 直人
薬を持って光の部屋に戻ると、ベットに寄り添うように跪く彼の姿があった。
「……下がって貰えますか」
俺の言葉に慌てて立ち上がる彼。
「.....光。これを飲んで」
俺は、光を抱き起こすと、持ってきた薬を飲ませた。さっきと様子が変わってない。いつもなら、瞬く間に熱が上がっていくはずだ。
薬は効いている……
ほっとして、全身の力が抜ける。
「....少し眠りなさい」
光の身体をベットに横たえると、東藤さんの方を振り返った。
「......兄さん.......遥のせいじゃないならね」
俺の背中に向かって訴える光。
こんな状況になっても彼を庇うんだな。
目の前にいる彼も、俺の後ろにいる光を必死に気にかけている。不安そうに青い顔をして。
想い合ってる2人………
後で穏やかになった呼吸が聞こえた。やはり薬は効いている。
これは、彼に逢えたからなのか、それとも俺との生活も少しは幸せだったからなのか……
光の様子に、小さく息を吐いた彼。
青い顔は、心配のせいだけではないように思えた。
額を触って確認する。
「......やっぱり...熱がある」
「えっ?」
それで、光は外に出たのか……彼の様子から森で迷子になった彼を光が探しに行った事は、予想がついた。
「....おそらく風邪を引いたんでしょう....足は?森で身体を冷やしたとしたなら、足もかなり冷えてしまったはずだ」
「......足は....大丈夫だと思います。そんなことより、光は……」
お互い自分よりも相手を心配して……
「......せっかく良くなった足を大事にしてください.......熱もあるし....診察室で少し休んだ方がいいでしょう。今、薬も用意しますから」
扉を開けて、外に出るように促す。
「.....あの....お願いです。ここに居させてください」
瞳の奥に意思の強さを感じる。俺は彼の横を通り抜け部屋の外に出た。
調剤室で薬を準備し、毛布と共に光の部屋に戻った。
ノックをし扉を開けると、彼がベットから離れるのが見えた。
「......薬を飲んでください。東藤さんも少し眠った方がいい」
「......ありがとうございます」
彼に手渡し、もう一度光の側に行く。
大丈夫そうだ………
薬を飲ませていて良かった。
額にかかる前髪を、耳にかけて額に触れる。
こんなに愛おしいのに……
「......あの.....光さんのこと.....本当にすみませんでした。僕が森で迷ったせいで....」
彼の言葉に、髪に触れる手を止めた。
「......光は、自分で外に出ることを決めたんだ......」
「.......でも」
「.....貴方だから外に出たんだ」
「...........」
自分に言い聞かせるように伝えた言葉。
「........何かあったら呼んでください」
それだけ告げると部屋を出た。
もう……手離そう
薬が造れた……光はまた、陽の光の中で笑えるんだ。
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