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side 光
こんな時間なのに灯りのついたキッチン。
そこには、シンクに向かって佇む兄さんがいた。
「……兄さん」
兄さんは、僕の呼び掛けに振り返って、直ぐに側に来て額に触れた。
「……もう大丈夫そうだな」
兄さんの手が頬に降りてきて、じっと見つめられる。
「……うん。大丈夫……心配かけて…ごめんなさい」
「………」
凄く心配かけたんだろう。今更だけど、一人で無茶をしてしまった。ひどく疲れたように見える兄さん。ちゃんと伝えなきゃ………
「……兄さん、僕ね……遥が好きなんだ」
頬にあった手がすっと離れる。
「………こんな風に誰かを好きになるなんて、思ってもみなかった」
「……良かったな……」
その一言に、僕は兄さんに抱きついた。
もしかしたら反対されるかも、そう思っていた。こんな僕が恋なんて……
「……いいの?遥と付き合っても」
「……反対したらやめるのか?」
「…………ううん…やめない。もう、諦めないって約束したんだ」
「………」
「……ありがとう兄さん。兄さんが僕を大切に見守ってくれてたから、僕も誰かを好きになることができたんだ。
誰かを思う気持ちは、兄さんが育ててくれたんだよ……」
いつも側に居てくれたのは兄さんだった。この人がいなければ………大切にする気持ちも、大事にされることも知らなかっただろう。
身体が力強く包まれる。
「……兄さん?」
「……頼む………少しだけ…こうしててくれ」
「………」
僕も兄さんの背中を強く抱き締めた。
温もりを通して、何かが兄さんの中から伝わってくる。………ああ…ずっとこの人に守られていたんだ。
「……光………もう、いつでも彼のところに行けるんだ」
「…………それって」
耳元で呟かれた言葉。
「……薬は完成してるんだ……」
「……………」
「……ごめん……俺、怖くて……効果を試せなかった」
兄さんの身体が、少し震えてる気がした。驚きと、でも自分の身体が何ともないのは、その為だったのかという納得と、兄さんの「ごめん」という言葉が頭の中を駆け巡る。
「……兄さん」
抱き締められていた力が不意に抜けて、身体が離される。
「……でも………お前が自分で証明してみせた……」
「……それで、こんなに早く熱が下がったんだ…」
「……ああ。他の症状も出てないだろう……熱もおそらく、彼を探して緊張したのと、久しぶりに陽の光を浴びたからだと思う。
このまま薬を飲み続けていれば、お前はもう……いつでも、どこでもいける」
告げられた言葉に、頬を涙が伝う。
「……兄さん……ありがとう」
今度は僕から兄さんを抱き締めた。
「……光……遅くなって…ごめん」
「もう謝らないで…………兄さんが治してくれたんだよ……」
「………」
兄さんは、そっと僕の身体を離し、頬の涙を拭うと……少し寂しそうに優しく微笑んだ。
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