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side 直人
「……兄さん、僕ね……遥が好きなんだ」
光が俺を真っ直ぐ見て言う。
「………こんな風に誰かを好きになるなんて、思ってもみなかった」
病気のせいか、どこか儚く頼りなかった弟の力強い眼差し。
「……良かったな……」
俺の言葉に飛び込むように抱きついてきた光。
「……いいの?遥と付き合っても」
「……反対したらやめるのか?」
「…………ううん…やめない。もう、諦めないって約束したんだ」
「………」
そうだ………光は、元々こういう強さを持った子だった。優しすぎて、相手を思いすぎて引いてしまうところがあったけど、ずっと支えて貰っていたのは俺の方だった。
「……ありがとう兄さん。兄さんが僕を大切に見守ってくれてたから、僕も誰かを好きになることができたんだ。
誰かを思う気持ちは、兄さんが育ててくれたんだよ……」
……誰かを思う気持ちは……俺が育てた?
思わず光を強く抱き締める。
「……兄さん?」
「……頼む………少しだけ…こうしててくれ」
「………」
光のその一言で充分だった。俺の想いは、光に届いていた。
愛してる……伝えることのない想いを腕に込める。
「……光………もう、いつでも彼のところに行けるんだ」
「………それって」
「……薬は完成してるんだ……」
「……………」
「……ごめん……俺、怖くて……効果を試せなかった」
「……兄さん」
身体を離すと、驚いた顔で俺を見上げる光。
「……でも………お前が自分で証明してみせた……」
「……それで、こんなに早く熱が下がったんだ…」
「……ああ。他の症状も出てないだろう……熱もおそらく、彼を探して緊張したのと、久しぶりに陽の光を浴びたからだと思う。
このまま薬を飲み続けていれば、お前はもう……いつでも、どこでもいける」
光の目にみるみるうちに、涙が溜まり頬を流れていく。
「……兄さん……ありがとう」
光の腕が音を立てそうなくらい力強く、俺を抱き締める。
「……光……遅くなって…ごめん」
「もう謝らないで…………兄さんが治してくれたんだよ……」
「………」
身体を離し頬の涙を拭うと、どちらともなく微笑む俺達。
俺が閉じてしまった扉を、自ら開いた光。
そのおかげで、やっと完成した薬のことを伝えられた。
母さん………胸の中にずっとつかえていた何かが、溶けたような気がするよ。
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