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48 最終回
side 光
久しぶりに歩く森の中、今年もこの季節がやってきた。
手を繋ぎ、ランタンを片手に進む。
さっきまで、空を包んでいた雲が風に流され、明るい月も顔を出した。
懐かしい花の香りが、風にのって僕達を誘う。
「……もう咲いてるみたい」
振り返り言うと、愛おしい人が笑顔で頷く。
木のトンネルを抜けると、まるで待っていてくれたように風に揺れる花たち。
その花は、月の光に照らされて眩く光っていた。
咲き誇る花の邪魔をしないように、静かにゆっくりと近づく。
「……綺麗だね」
「……うん」
「……この花のおかげなんだ……」
僕の薬は、この花から出来てると兄さんが教えてくれた。
この花が咲いてくれたから、僕は遥と歩んで行ける。
咲いてくれた奇跡と、見つけられた奇跡。そして遥と出会えた奇跡。
「……遥のおかげでもあるよ」
病気のこと踊ること、そして僕のことも諦めない遥の強さがあったから、僕は新しい世界への扉を開けられたんだ。
彼が花から視線を僕に移す。両頬を温かい手に包まれ、ゆっくりと近づく唇が優しく僕の唇に触れる。
もう何度も交わしたキス。
今日は、花の前で誓うように交わすキス。
「……ルミエール…良い名前だね」
唇を離した遥が、額を僕の額につけて呟く。
森で出逢った僕達は、その名の通りお互いの光となった。
これからも二人で輝いていくために、繋いだ手はもう二度と離さない。
僕を育んでくれたこの森。
「……ありがとう」
そう告げると、僕達はゆっくり森をあとにした。
fin
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