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12 姉の日記
奈菜の失踪に、一輝は納得ができなかった。彼女はどうしてあんな男と一緒に姿を消してしまったのだろうか。
妹をたぶらかし、自分の前から連れ去ったあの男が許せない。だが同時に、自分が何もできなかったことを悔やんだ。
すぐに警察に駆け込んで妹が失踪したことを報告するも、一輝の証言だけでは事件性があるかどうかは判断できないとして、まともに取り合ってもらえなかった。
それも仕方がないことだとは思う。だってAは、一輝が呼び出した魔物だ。本来ならどこにも存在しないはずの男に妹が誘拐されたなんて話、誰が信じるだろうか。
だが一輝は諦めるわけにはいかなかった。妹を見つけ出すためにも、何か行動を起こさなくてはならないのだ。
それからほどなくして彼は妹の暮らしているアパートへと足を運んだ。大家さんに鍵を開けてもらい、中へ入る。室内は綺麗に整頓されており、特に変わった様子はなかった。何か手がかりが残されていないかと、一輝は注意深く部屋の中を見て回る。
けれど目ぼしいものは何も見つからず、焦燥感だけが募っていく。
「くそ、どうすればいいんだ」
一輝は頭を抱えた。だがその時、ふとベッドの下に置かれている小さなダンボール箱が目についた。気になってその中を開けてみると、中にはダイヤル式の日記帳が入っていた。
シックなデザインのそれを手にとって、一輝は怪訝顔をする。奈菜の好みとは全く異なるものだ。こんな場所に隠すように置いてあったのも気になるし、使い古された痕跡が見られるのも不思議だ。
(まさかこれは、姉さんの?)
一輝は直感的に、この日記帳が亡き姉の残した物なのではないかと考えた。佳奈の遺品を整理した際、日記の存在には気が付かなかったが……もしかすると、奈菜が密かに持ち出していたのかもしれない。
一輝は適当にダイヤルを回してみたが、開くことはできなかった。だが番号がわからない以上どうしようもない。
他にこれといった手がかりも見つからなかったので、一輝は日記だけを持って仕方なく部屋を後にした。
自分の家に戻り、改めて日記を確認してみる。
ダイヤルは三桁の物だったから、000から999までを順に試していけばいずれは開くだろう。だがそんな悠長なことをしている時間はない。
「姉さん、ごめん」
一輝はハサミを持ってくると、ベルトの部分を切断した。そして日記帳を開くと、そこには手書きの文字で様々なことが書かれていた。
見覚えのある綺麗な筆跡。それは間違いなく、姉のものだ。
「姉さん……」
一輝は期待と不安が入り混じった複雑な気持ちを抱えながら、ページをめくっていく。
だがそこに書かれていた内容に、一輝は吐き気を催した。
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