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二、
「昼間は何をしているんだ?」
「お婆ちゃんに着替えを届けて、あとは家でゴロゴロしていますね」
「退屈そうだ」
「実家にいてもこんな感じですよ。あ、唐揚げ食べないんですか?」
「ああ、食べるよ。それにしても、いつも似たような服装だな」
「家着しか持ってこなかったんです」
「見舞いに行く服装ではないだろ。おい、ご飯のお代わりするか?」
「太りたくないので、ごちそうさまにします」
鈴香は自身の使用した食器を流しに運び、それからお茶を淹れた。
スイカを食べた翌日から、二人は夕食を共にしていた。彼女は隣の家で調理を済まし、康介が帰宅すると、毎日のように重箱に入った料理を持って訪ねてくる。
費用は折半、正確には鈴香の言い値ではあるが、それを支払うことだけが他人であることを証明している。その儀式がなければ、家族と見紛うほどに彼女は自然とそこにいた。歳は離れ、違う土地に暮し、今まで全く接点のない生き方をしてきたことが、かえって気を遣わずに済んだ要因かも知れない。
いずれにしても、わずか数日のうちに、鈴香の存在は康介の生活の一部に組み込まれていた。
お茶を飲み終えると、鈴香は持参した器を手提げに入れて縁側へと向かった。彼女は玄関を利用せず、庭を通って裏門から帰ることを好む。曰く、月下美人の様子を観ることが出来るからだそうだ。
康介はサンダルを履く鈴香を見下ろし、恥ずかしげに礼を述べた。
「いつも助かるよ。ありがとう」
彼女は上目遣いに微笑む。
「こちらこそ。それじゃあ、また明日。おやすみなさい」
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