孤独

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孤独

 時は経ち、小競り合いを繰り広げていた屋根の一団がいっせいに飛び立つと、次から次へと雀集団は去って行った。  周りには誰もいない。電線にも、屋根の上にも。いっときの、ほんのいっときの縄張りを主張して争った仲間たちは、一羽もいなくなった。囚われたスズメだけが尚も格闘し続けねばならなかった。  自由を求め、嘴を駆使して魔物への攻撃を幾度となく試みるも、願いは敢え無くはねのけられる。そうして、幾日も幾日もむなしい時間が繰り返されるのみ。  時折、仲間たちは現れた。やはり抗争は飽くことはない。孤独なスズメは、集団の争いに否応なく巻き込まれ、せめぎ合いの荒野で、権謀術数に長けたものの餌食になり、辛うじて己の居場所は死守できたものの、囚われた身では逃れること(あた)わず、立ち向かうしか生き残る術はないのだ。やり込められ、傷つきながらも必死に抵抗した。  食料など運んでくれるものは誰もいないし、仲間たちが現れれば挑まなくてはならない。こんな飲まず食わずの戦いの日々が、永遠のようにやって来る。戦い終えて夜をやり過ごし、平穏な朝を迎えても瞬く間に抗争の渦中に巻き込まれる。その身は傍目にも疲弊しきったかに見受けられた。しかし、弱り切った一羽に集団は手心など決して加えない。それどころか、寄ってたかって虐め抜く。それが掟だと言わんばかりに。  スズメは果敢に挑み続けたが、強者を相手にするとき、悲惨な目に遭うのは必定だった。弱者は徹底的に排除される。立ち向かえば却って反撃は激しくなる。  スズメは身動き取れる範囲で逃げることを選択した。そうすれば自由になれるのだ。だが、逃げることを覚えたスズメは、自由こそ手に入れはした。が、底辺で生きねばならない。強者への道を求めても、孤独の身では限界がある。分不相応な生は全うできはしないのだ。  時の狭間の一瞬とも言える抗争劇を終えると雀たちは消え、囚われの一羽だけが置き去りになる。だが、休息の時間が訪れた。明日に備え、寂しく英気を養う時間なのだ。  孤独な夜をやり過ごす。それは立ち向かおうとする意志なのか、唯々耐え忍んでいる姿か……  ──この、ひとりの意味は何であろうか?  翌日、翌々日、そのまた翌日も集団は現れなかった。  風雨にさらされながら三日過ぎ、羽毛は濡れそぼって、凍えを堪える羽目になったが、幸い、降雨のお陰で金属棒についた水滴を嘴で掬い、喉を潤すことはできた。  棒と棒のつなぎ目に溜まった少量の雨水を糧に七日目の夕日に照らされた佇まいは、達観した求道者然として穏やかに映った。生命を超越した魂の(ほむら)のように夕日に映えている。その姿に、誰しも目を背けることはできぬはずだ。  夕闇が残照を追い越し、冷たい夜風が吹き荒れて、また真の孤独が始まった。
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