4.専門性とフェチ

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4.専門性とフェチ

 また突然、好きな映画の話から始めてしまうんですけど、「ファンタスティック・ビースト」シリーズの主人公であるニュート・スキャマンダーは、作品の冒頭、優しげではあるけどいくぶん冴えない雰囲気の青年として登場するのに、少し物語がすすんでひとたび魔法生物を前にすると、人が変わったようにいきいきと、専門家としての豊富な知見を披露してくれて、我々のハートをわしづかみにしていきますよね(ここまで息継ぎなしの早口)。  ギャップ萌え、とひとことで片付けてしまってもいいのですが、もう少し、私自身の萌えの解像度を上げるならば、普通の人だと思っていたのにじつはすごい特技や専門知識を持っている、というのに弱い。すぐ惚れてしまいます。たとえば――。  普段は目立たない存在なのにじつはピアノが上手なクラスの友だち。  普段はもの静かだけどめちゃくちゃエモい写真を撮る技術を持っていて、しれっと有名なコンクールに入賞している写真部の男子。  会社のパソコンがフリーズしてしまい困っているところを、控えめな笑顔で助けてくれる、出向社員(年下男性)。  飲み会の帰りに、ほろ酔いで「ねえ見て、きれいな花だね」と道ばたの植栽を指差すと、その花の名前を教えてくれるのはもちろんのこと、世話のしかたや花言葉にまで話が及んでとまらなくなる会社の同期(注:すべて夏田の妄想です)。  美容師さんが髪を切ってくれる手もとも、たまにじっとみてるとその器用な動きにうっかり惚れてしまいそうになりますね(あれ? ならないですか?)。 ◆  デュフデュフ、また楽しく前置き妄想を書き連ねてしまいました。  創作にあたって私が好きだなぁと思うのは、冒頭に挙げた「ファンタビ」のニュートのように「本人は自分の才能や専門的知識をひけらかすことはしないけど、相手から見ればすごく魅力的」というキャラクターです。いくつかの作品の主人公として、そういう人たちを書きました。  「単焦点シリーズ」の一彦。  「獅子と牡丹シリーズ」の櫂ちゃん。  「ソロモンと猫」の、猫のことばがわかる達也もそんな感じ。  みんな「自分はダメだなあ」と思いつめがちで不安定だけど、その才能とか性質を認めてくれる人との出会いがあり、その人との交流を通してはっきりと幸せをつかんでいく、というようなラブストーリーになるように書いたつもりです……  そしてどのキャラクターもただ無条件に溺愛されるというよりは、揺れ動きながらも胸の中にゆるぎないものを持っていて、最後は自分から気持ちを伝えたり、人生を肯定している様子が感じられる結末がいいなぁと思いながら書きました。  いっぽうで、他を寄せつけない孤高のプロフェッショナルが、相手からのぐいぐいアプローチでうっかり心を開いちゃったり、その才能をチラつかせながら相手を誘惑するというのもいいですよね……。  超短編ですけど「人こひ初めしはじめなり」の高校生ピアニスト・久岡君とか、「春林奇譚シリーズ」の貴船さんなどはそう思いながら書きました。  次ページではもう少し突っ込んで、私のフェティシズムについてお話ししてみようと思います。といってもそんなに特殊な性癖ではなくて、男の人の手と、匂いについての話です(頬を染める)。
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