3.東京

1/2
前へ
/14ページ
次へ

3.東京

 私は大人になった今でもEテレが好きでよく見ています。  「0655」「2355」などは気に入っていて、夜ふかしができないから「2355」は見られないけど、朝の「0655」はよく見ます。  この番組のオリジナルソングに「小石川植物園に行ってみました」という歌があります。小石川植物園は、この曲の歌詞に「研究のための 静かな植物園」「東京大学の 付属の植物園」とあるように、正式な名前を「東京大学大学院理学系研究科附属植物園」といいます。(ところで一般人がパッとみて理解できる漢字の羅列は6文字程度までという説がありますが、これは漢字18文字。うーん、さすが学術機関って感じ!)  一般公開されているので入園料を支払えば誰でも入ることができて、桜の季節だけは花見客で賑わうけど、それ以外は訪れる人も多くはなくて、静かできれいな植物園です。  それで夏田の自作語りですけども……私はこの小石川植物園が好きで、ここを思い浮かべながら「春林奇譚」のラストシーンを書きました。満開の桜が散る中で、主人公の黒田が、想い人である貴船(きふね)の口ずさむ旋律を五線紙に書き取る場面。  小石川植物園にはソメイヨシノの森があります。ここは泉鏡花の短編「外科室」を坂東玉三郎が映像化した映画のロケ地でもあって、映画冒頭の静謐な桜の情景は、もうずっと私が好きでたまらないシーンのひとつです。  好きな映画の話ついでに、もうひとつ裏話をしてもいいですか……散る桜とともに消えてしまう運命にある貴船が、黒田に急いで採譜させるっていう描写は、不朽の名作「アマデウス」のクライマックス、病床のモーツァルトがサリエリに採譜させているシーンの真似っこだったりもして。「アマデウス」は私が「好きな映画を一本だけ挙げよ」と言われたら間違いなくこれを挙げるってほど大好きな作品です。きゃっ。  ◆    私は東京が大好きで長年住んでいるのですけど、これはべつに都会好みというわけではなくて、どこにだって徒歩と電車とバスで行ける便利さとか、ちょっと移動するだけで風景がガラッと変わる感じが好きという気がします。  よく手入れされた緑地や水辺、昔ながらの雑木林や森が点在する東京西部も好きなエリアです。井の頭恩賜公園やジブリ美術館があるあたり、いいですよね。「俺と、しろほしの30日間」の優希(ゆうき)としろほしは杉並区在住という設定。「ソロモンと猫」の達也と良介が勤める「M市役所」は、三鷹市と武蔵野市のハイブリッドで、達也のおばあちゃまが住んでいるのは、立川駅からモノレールで行く「多摩動物公園」の近く。などなど。  私が東京西部が好きなのは、敬愛する長野まゆみ先生が武蔵野の各地をイメージした作品を数多く書いておられるから、というのもあってですね……。調布市にある「神代(じんだい)植物公園」も、長野先生の初期のエッセイ「ことばのブリキ罐」で触れられている聖地であります(もちろん巡礼済みだし、ある自作品の舞台にもした……照)。  あと少し語ってもいいですか?  ここまでは、美しい植物園や緑地の話をしたので、次のページでは私の好きな繁華街についてお話ししてみたいと思います。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加