寿退社

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駿とはあれから、もう連絡も取っていない。そして、花梨はますます楽しそうに出勤している。 ___なんだかつまんない 合コンの誘いも、気乗りしなくて断ってばかりだから新しい出会いもない。何か面白いことはないかと、そればかり考えている。 「あ、そうだ!」 ランチの帰り道、前を歩く望都(もと)に気づいた。花梨には近寄ってるくせに、私のことはまったく気にもとめてないヤツ。授かり婚で奥さんは実家に帰ってると噂で聞いた。 ___花梨よりも私に興味を持ちなさいよ! 会社まで後ろからついていく。同僚らしい男性と何やら楽しげに会話しながら、自動ドアを入る望都(もと)。どんなタイミングで話しかけようか、考えながら少し距離を置いて歩く。 「あれ?芳川さん、今ランチの帰り?」 聞き覚えのある声は、あのハンカチ男子の倉本だった。 「あ、うん」 「僕も今急いで食べてきたとこ。少し離れたところに美味しいお蕎麦の店を見つけたんだ。よかったらどう?今度。ご馳走するよ」 「あ、ありがと」 「それからまた、懇親会やるから、来てよね?」 「わかった、メンバー次第で」 「え?」 「ううん、スケジュール次第で参加するね」 なんて話していたら、望都が乗ったエレベーターは閉まろうとしている。そこに飛び込んで花梨が乗ったのが見えた。 「私も!乗ります!」 慌てて乗り込んだ。 エレベーターでは、望都(もと)が花梨に話しかけていた。 「篠原さん、今日からですよね?新製品の…」 「そう、これから協力会社の人がみえる予定、ちょっと緊張するわ」 「頑張ってくださいね」 「うん、ありがと」 ___新製品の?ということはあのプレゼンの… またアイツと仕事をすることになると、駿が言っていたことを思い出した。 ___もしかして、本当によりを戻したりする? もうどうでもいいと思っていたのに、やっぱり気になってしまう。 チン!と音がしてエレベーターのドアが開いた。うっかり、花梨と望都について5階まで上がってしまって、もう一度3階へのボタンを押した。 ___それにしても 他にも2人男性がいたけど、私のことにまるっきり気づかなかったようだ。それとも望都と花梨と2人して私のことを無視したのだろうか?あの2人にとって、私なんて何の気にもならない存在だということ? 「もうっ!!」 思わず声に出してしまう。 ___そうだ! 新製品の打ち合わせとやらを、覗きに行くことにした。書類回収のためのトレイを持っていれば、私が何階にいても誰もおかしいとは思わないし。こっそり打ち合わせの場を覗いてみることにした。
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