萩原篠原

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運ばれてきた料理は、大皿が多かった。手慣れた様子で小皿に分けているのは、亜里沙だ。 「ありがとうね、亜里沙ちゃん」 目の前に置かれた皿を見て、駿がお礼を言っている。 「どういたしまして。トマトもちゃんと食べてくださいね。カプレーゼはチーズと食べれば美味しくトマトを食べられますから」 「えー、なんで俺がトマト苦手って知ってるの?」 「花梨さんが言ってましたから。どんなふうに料理しても生トマトは食べてくれないって」 「ちぇっ!あいつ、こんなとこまで女房風吹かせて」 小皿の小さなトマトをフォークで刺し、目の前でクルクル回し始めた駿。まるで子どもみたいだ。 「萩原先輩、トマト苦手なんですか?」 「そ、なんかこの中身がニュルっと出てくる感じがね、草みたいな味もするし」 私は立ち上がって駿の隣へ行き、亜里沙との間に入る。 「はい、ください」 背をかがめ、小さく口を開けて駿が手にしたミニトマトをねだる。少しだけ目を閉じることを忘れない。 「えっ!おーっ!はい、どうぞ」 驚きつつも私の口の中にトマトを入れてくれる駿。周りでも、おーっと声が聞こえる。 「ん、美味しいですよ、甘いですこれ」 「…てか、すずちゃん、そんな顔されたらゾクっとするよ、色っぽいね」 「え、きゃ、そんな…」 わかってる、そう見えるように計算して表情を作ったのだから。けれど意外だというふうに、両手で頬を隠す。 「ここ、座る?」 ふざけた駿が、自分の膝の上を指差す。 「え、いえ、そんな。恥ずかしいです。戻りますね」 私は顔を隠しながら自分の席へ戻った。これ以上接近するのは、下心があからさまに見え見えだから。 「やだ、もう…」 顔をパタパタと仰いで、照れて見せる。 「すずちゃん、可愛いだけじゃなくて、色っぽいんだね。さっきのトマトをくださいって言ってる顔、ドキドキしたよ」 わかってるって!とは言わず、笑って誤魔化した。
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