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あと少し
___これ、わざと?
駿が出してきた領収書には、日付が入ってなかった。わざわざ職場まで行かなくても、名刺の番号に電話をすればいいし、ちょうどいい口実になるけど。会議や打ち合わせをしていたら電話には出られないだろうから、ワンギリをしてメッセージを残しておいた。
“経理の芳川です。提出していただいた領収書に不備があったので連絡しました。お時間ある時に、お電話ください”
あくまでも事務的な文面にする。簡単に誘いに乗る女だと思われては、軽く扱われて遊ばれるに決まっている。
___それじゃ、あの花梨には勝てないどころか余計に惨めになる
駿の一番の女にならなければ、意味がない。
しばらくして、駿から電話があった。
『すずちゃん、電話ありがとね。で、書類に不備?』
「はい、日付だけなんですが、これがないと処理ができないので…」
『わかった、今、経理部にいる?』
「はい、デスクにいます」
『じゃあ、ちょっとお邪魔…するよっと』
最後はリアルな声が聞こえた。気がついたらすぐ後ろに立っていた。
「え?いつのまに?」
「そこまで来てさ、そっと近づきながら電話してたんだよ」
「え、なんか恥ずかしいですね、知らないところで見られてるなんて」
「すずちゃんは、ずっと見ていられるから恥ずかしがらなくても大丈夫」
「また、そんな…。あ、書類なんですが…」
簡単に記入して、すぐに終わった。
「わざわざ来ていただいて、ありがとうございました」
「いいってこと。じゃ、またね、すずちゃん」
「はい」
◇◇◇◇◇
その夜。
LINEが届いた。
“こんばんは。届いてるかな?”
“萩原駿です”
___きた!
“届いてますよ。今日はありがとうございました”
“そんな話はいいから。まえ話してたカクテルのお店、近いうちにどう?”
“はい、行きたいです。今度は何人参加ですか?”
わざととぼける。
“二人”
“え?”
“俺と二人で行こ、ね!ご馳走するから”
“でも、さすがにそれは、彼女さんに誤解されますから”
“誤解?誤解じゃなくすればいいでしょ”
“そんな…”
“ま、アイツのことは気にしなくていいから、行こうよ、ね!”
“でも、私は、一途になってしまいますから、彼女持ちの萩原さんとは”
___遊ばれるだけなんて、絶対ダメだ
“たまらんね。すずちゃんみたいな女の子に一途になられたら、男としてこんなうれしいことはないね”
“すみません、これ以上お話ししていたら萩原さんのこと…”
“俺のことが、なに?”
“その…気になってしまいます”
“そのままさ、好きになってよ俺のこと。一途にさ。俺もすずちゃんのことが気になって仕方ないんだよね”
___きたーっ!
“ダメです。彼女さんがいるのに”
“あ、アイツがいなきゃいいの?”
“そんなことは…”
“わかった。とりあえず、カクテルのお店は決定だからね”
あと少しだ。
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