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よっしゃ!
カクテルをご馳走になるだけ!と念を押して、駿の誘いにのった。まだ花梨との関係は何も変わっていないみたいだから、先走ると失敗する。
酔い覚ましに港が見える高台の公園まできた。
「美味しかった…」
「すずちゃん、意外と酒強いんだね?この前はあんまり飲んでなかったけど」
「それは…気を許せる人の前でしか飲めませんよ。どんな醜態を晒してしまうかわかりませんから」
「おっとっと!大丈夫?」
わざとふらついた私を支えてくれる。そのまますっと正面にきて、クイッと顎を上げられて、背が高い駿と向き合い目線が合った。
「じゃあ、俺には気を許してくれてるってこと?」
真剣な眼差しで問われる。
「そんな簡単なことでは…」
「じゃあ、どういうこと?」
私の顎に添えられた手を振り払って、思い切って抱きつく。
「…ごめんなさい」
「え?すずちゃん?」
「……ダメだってわかってるつもりだったのに、もう自分の気持ちを誤魔化せません。好きです、好きになってはいけない人なのに、大好きになってしまったんです…」
「すずちゃん…」
涙が思ったより出てこなくて焦ったけど、夜の街灯の下ではそんなことはわからないだろう。
「…泣いてるの?」
「だ、だって、どんなに好きになっても…手が届かない…萩原さんには…」
「そっか…」
泣きじゃくる(?)私の頭を優しくぽんぽんとしている駿の手を、強めに払う。
「優しくしないでください、これ以上の気持ちにならないように、ブレーキをかけているのに」
「いいよ、ブレーキなんかかけなくても」
そのまますっぽりと抱きしめられた。
「え…?」
「俺もすずちゃん…すずのことが好きになってしまったから。アイツとは別れる」
「え?でも、そんな…彼女さんが…」
___よっしゃ!!
心でガッツポーズをしながら、しおらしくセリフを続ける。
「アイツとは、なんか合わないんだよね…結婚の話ばかりしてくるしさ。俺はまだそこまで考えていないし」
「結婚をするつもりで同棲してたんじゃないんですか?」
「あー、正確には、アイツがうちに転がり込んで住み始めたって感じ?だから、出てってもらうよ」
「萩原…さん?ホントに?」
「うん、俺のことは駿と呼んでよ、これからは」
「駿…恥ずかしいです。駿ちゃんとか?」
「それでもいいよ」
「やだ…うれしくて…」
今度はうれし泣きのフリ。
「なんだよ、また泣いてるの?」
「だって、ずっと苦しかったんです。好きになってはいけないってずっと自分の気持ちに蓋をしてたんですから」
「よしよし、これからは我慢しなくていいよ。俺の彼女はすずだけだ」
「…うれしいです…」
抱きしめあってキスを繰り返してる時、駿のスマホが鳴った。
「…んだよ、まったく!」
面倒臭そうに、ポケットのスマホを見た。チッと軽く舌打ちする。
「あ?うん、俺は、食べて帰るから。そ」
「彼女さん?」
「あー、そう。ごめんね、せっかくの二人の時間だったのに」
「いえ、横入りしたのは私ですから。でも、もしも彼女さんが出て行ったら私も駿ちゃんの部屋に行っていいですか?」
「もちろん!おいでよ近いうちに」
「じゃ、その時がきたら呼んでくださいね」
しかし、そのあともなかなか二人が別れたという話は聞かなかった。
___こうなったら強行手段だな
強引な手に出ることにした。
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