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不倫ですか?
次の日も私は、花梨と望都の様子を見に行く。書類集めに来たフリで、そっと二人の様子を見ていた。
「せーんぱいっ!」
「何の用?今、ちょっと忙しいんだけど」
花梨は、パソコンからは視線を外さずに返事をする。
「昨日の、芳川すず、また来てますよ。そんで先輩をなんか睨んでますけど、なにかしたんですか?」
___やっぱりバレてたか
キーボードから手を離した花梨がこちらの方へ振り返る。私は身構えた。
「ほら!」
体は花梨の方を向いたまま、親指を立てて私を指し示す望都の背中越しに花梨と目が合った。目線を逸らさないように見つめたまま近づき、こっちへ来てと人影のない階段室に誘われ、私はついていく。
「私に何か用?」
「……」
「言いたいことがあるなら…」
「あなた、駿とその人を二股かけてたの?」
「は?」
望都もここに来ていた。二人まとめて問い詰めてやろうと思う。
「あの!何を言ってるの?よく見て!これを!」
花梨は望都の左手に光る指輪を見せた。
「えっ、じゃあ不倫なの?」
「どうしてそうな……」
「そうだよ!俺とこの人は付き合ってるの。だから邪魔しないでくれる?」
花梨は否定しようとしたそのタイミングで、望都が花梨を抱きしめた。
「こら!何ふざけてるの!やめなさい」
花梨は慌てて、職場でふざけないでと望都の手を払う。
「やっぱり駿はあなたと別れて正解だったってことね、そんな女だったんだって駿に言ってやるから」
「もう、好きにして。私には関係ないことだから。だいたいなんで私を見張るようなことしてるの?アイツに頼まれたの?」
「違うわ、私は恋に負けた女のその後を見たかっただけ。しばらく欠勤でもするかと思ってたのに、元気で会社に来てるから、なんでか知りたかったのよ」
思っていたことをそのままぶつけてやる。
「ごめんなさいね、私にとってアイツなんて、そんなもんだったのよ。あなたにあげるからせいぜい仲良くしてね」
「その人とよろしくやってるから、駿とのことは平気だったんだね、なるほどね」
遠巻きに通りがかった人の視線を感じる。ここで花梨という女のアラを広めようか。
「だから!花梨ちゃんは俺と付き合ってて不倫でもそれなりに幸せだから。そう伝えてね、その人に」
「だから!そんなんじゃないって言ってるでしょ!」
花梨は望都を軽くデコピンする。
「噂の彼と別れたのなら、俺にもチャンスくださいよー」
「絶対にやらん!あんたみたいな既婚者には!」
二人で会話しながら、そこから離れて行った。
___どういうこと?
望都の一方通行のようだったけど。
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