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冗談
___何故、花梨ばかりが男性にモテるのだろう?
洗面所で、メイクを直しながら考えた。
駿と別れても、他にも望都のように言い寄ってくる男がいるということなのだろうか?
それにしても面白くない。私は勝ったはずなのに。
「ただいま」
少しだけ荷物を運んだ駿の部屋へ行く。まだ完璧に同棲するかどうか悩んでいる。
「あー、またか…」
週に3日ほどしかここには来ないけど、その度に部屋が散らかっていて、まずは片付けるところから始めなくてはならない。飲みかけの缶ビール、コンビニ弁当のゴミ、洗濯機には洗濯物が積まれてはみ出している。
仕事を終わって帰ってきても、こんな部屋ではご飯を作るのもイヤになる。同棲したとすると、毎日こんなことをしなくちゃならないのか…。
もともと、ご飯を作るのは得意じゃないし、できればしたくない。掃除と洗濯はなんとかなるけど、毎日はごめんだ。
ゴミをまとめて、洗濯物を干した頃。
「ただいま、すずちゃん!待ってたよぉ!」
「あ、おかえりなさい」
「晩飯なにかな?」
「え、まだ何もできてなくて…」
「うそ!俺もう腹減って死にそうなんだけど」
「じゃ、あの…」
掃除機をかけるとか野菜を出すとかして欲しいなと言う前に、ドカッとソファに座りスマホを取り出してゲームを始めた。
「あの…駿ちゃん…?」
「………あっ!やられた!!え?何?」
スマホからは視線を外さずに、声だけの返事にカチンときた。
「私も疲れたから、何か買ってくる!」
「俺、餃子と天津飯ね!」
___はぁ??
バッグを持つと、思いきり玄関ドアを閉めた。階段を降りて、スーパーのお惣菜コーナーへ行き、手当たり次第にパック詰めの惣菜を買っていく。
___なんで?なんで私ばかり?
まだ結婚したわけでもないし、同棲も始めていない。なのにこんなのは不公平だ。
「あれ?すずちゃん?」
聞き覚えのある声に呼び止められた。
「あ、こんばんは」
山下望都だった。
「奇遇だね?俺も今は独身みたいなもんだからさ、ここでよく買い物してるんだよ」
手に提げた買い物バックを見せてきた。
「篠原さんに作りにきてもらえばいいんじゃないですか?」
「花梨さん?無理無理無理!」
望都は大袈裟なほどに手を振って否定する。
「付き合ってるんでしょ、それに今は独身みたいなものなら、いいんじゃないですか?」
「ぷっ!あはは」
望都はいきなり笑い出した。
「何がおかしいんですか?自分でそう言ってたじゃないですか!」
「あんな冗談、信じたの?花梨さんがそんなことするわけないじゃん?あの人は、不道徳なことは絶対しないよ。だからあんな冗談も言えるんだし」
「冗談?」
「反対にさ、すずちゃんには、あんなこと言えないよね?本気にしそうだから」
カッ!と顔が熱くなるのがわかった。なんだかものすごく馬鹿にされたような言い方だ。
「君があんまり花梨さんにしつこく付き纏ってたから、冗談で誤魔化したつもりだったんだけどね。俺、冗談、下手過ぎたね」
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