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花梨と朔太郎
私達に気づかなかったふりで男性とおしゃべりを続けていた花梨に、話しかけた。
「こんばんは、今日はデートですか?」
「なんでもいいでしょ!」
花梨の声に苛立ちがこもっているようだ。
___私が駿といるんだもん、そりゃイライラするよね?
私は少しマウントを取った気になる。
「こんばんは。花梨さんのお友達ですか?」
花梨の正面に座ってにこやかに話しかけてきた男性。見た目はまぁいい方、でも駿よりは落ちる。
「友達というか…同じ会社のものですけど。あれ?花梨さんって別の人と付き合ってるんじゃ?」
わざと、山下望都のことを話題にする。
「私は誰とも付き合ってないから」
「隠さなくても、もうバレてるんだからいいだろ?あの不倫相手とだけじゃなく、他にも男がいたなんて、俺、お前とさっさと別れてよかったわ」
駿も私を加勢してくれる。駿に望都と花梨は不倫していると吹き込んでおいてよかった。
「花梨さん…?」
花梨の前に座っている男性が花梨に声をかける。
___“あなたがそんな女性だったなんて知りませんでした!”とか言って、花梨をふってしまえ!
私はこの後に起こるだろうシーンを想像して、ワクワクする。そこにまた駿が追い討ちをかけた。
「あなたも、こんな女なんかと付き合わない方がいいですよ、何人男がいるかわかりませんよ」
そこまで言ったとき、花梨が立ち上がった。駿に怒るのか、この男性に言い訳するのか?
その時、静かにその男性は言った。
「僕はかまいませんよ、花梨さんがそれでいいのなら」
「は?」
「え?」
「花梨さんがそれで幸せならば、それで構いませんと言ったんです」
思いもつかないその発言に、私も駿も言葉を失う。
「花梨さんが幸せになる権利を、僕が邪魔することはできませんから」
「朔太郎さん…」
立ち上がっていた花梨は、またゆっくり腰を下ろした。隣にいる駿も、なんだか呆気にとられている。
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