84人が本棚に入れています
本棚に追加
この、朔太郎と呼ばれた男性は、花梨と付き合ってるわけじゃないのだろうか?
「朔太郎さん、違うから!この人たちが勝手になにか勘違いしてるだけだから、ね!」
花梨が慌てて言い訳をしているところをみると、ただの仕事関係とか友人というわけでもなさそうなんだけど。
「自分の女に、他に男がいても気にならないのか?」
もっともな質問を朔太郎に投げかける駿。
「花梨さんは僕のものではありませんから」
朔太郎をじっくりと観察するような駿の目線。
「ふーん、あ、そうか。あんたはアレだ、花梨の男選びの条件から外れてるからか。花梨の彼氏じゃないってことだな」
「条件?」
「こいつの男選びの第一条件は、自分より背が高いことなんだよ、知らなかったのか?」
「あっ!なんでそんなこと言うのよ、いまさらあんたには関係ないでしょうが!」
朔太郎には知られたくなかったことなんだろうなということが花梨の慌て方でわかる。
「失礼ですが…さっきから聞いていた諸々のことと、今僕と花梨さんがここで食事を楽しんでいることは、何か関係がありますか?」
「いや、だって、付き合ってるんだったら気になるだろうと思って教えてやっただけだよ」
まるでいいことをしたような言い回しで駿が答える。それでもこの朔太郎という男は全く動じていないようだ。
「そうでしたか。でも僕と花梨さんはお付き合いはしていませんよ、一緒に暮らしてるだけですから」
「は?」
「え?」
「申し訳ありませんが、せっかくの食事が美味しくなくなってしまいますので、この辺でよろしいでしょうか?」
「は?まぁ…」
邪魔にされてしまっては仕方ない。私たちはそこから離れた。けれど、どういうことだろう?私は駿のあとについて奥の席へ行く。
「なぁ、あの男、何なんだ?絶対おかしいだろ?ってか、山下ってヤツとアイツが不倫してるっていうのも、デマじゃないのか?」
「私、ちゃんと見たから!あの2人が親密なやり取りしてるのを。本人のあの山下さんもそう言ってたし」
その後であれは冗談だったと望都に否定されたけど、そのことは駿には話していない。そんなことを話したら、私が嘘つきになってしまうから。
「まぁいいけど。もし本当に不倫してても、あの場では認めないだろうしね」
「うん、そうだよ、言えるわけないよ」
そんな話をしながら、私は駿の肩越しに花梨と朔太郎を見た。新しいワインを頼んでまた乾杯しているようだ。
「あ、ここ割り勘ね、俺、今金ないから」
「え?」
「すずちゃんが作ってくれたらもっと安上がりなんだけどね」
心の中で、何かが崩れ落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!