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プレゼン
___この人、こんな人だったんだ…
先に知ってたらあんなに強引に花梨から横取りしたりしなかったのにと、後悔した。
「そういえば、このあいだのプレゼン、結果が出たんだけど。アイツのアイデアが採用されたよ。すずちゃんのはダメだった」
「………」
「で、そのプレゼンの実践部隊として俺が手伝うんだよね」
「え?じゃあ…」
「そ。またアイツと仕事をすることになる。あ、もしかして、嫉妬する?すずちゃん」
「もちろんです、心配です」
本心はどうでもよかった。駿が花梨とよりを戻したとしても、もうどうでもいい。先日あった社内の新製品のプレゼンでも、花梨に負けたことが、私をうちのめした。
「アイツ、あれで仕事もできるからなぁ。家事も全般こなしてたし、買い物とかもなんの文句も言わなかったし…」
そこまで聞いて、我慢していた何かがはち切れた。
「じゃあ、よりを戻したらいいじゃないですか!私じゃなくてもいいんですよね?ってか、家事ができない私なんて、必要ないってことですよね?」
目の前の駿は、少し驚いた顔をしているけれど、慌てたりはしていない。
「いやいや、まぁ、家事なんて結婚する時にできるようになっていれば、それでいいし。それに、すずちゃんが俺のことを好きだと思ってくれてるなら、努力してくれるでしょ?」
「はぁ?努力?私が?なんで?」
「なんでって、それは…」
「ごめんなさい、もういいです。私には無理です、これ返します」
バッグから合鍵を出して、テーブルに置く。
「え、ちょっと待って!」
私は構わず歩き出した。
「料理、まだ来てないからいいですよね?私の分キャンセルで!」
「かしこまりました」
店員さんは驚いていたけれど、それももうどうでもいい。
花梨と朔太郎はまだ楽しそうに食べている。2人に気づかれないように、そっとお店を出た。
____なんで?なんでこうなるの?!
私は何がしたかったのだろう?
悲しい?
悔しい?
違う、寂しい。
さっきの朔太郎という人のセリフを思い出す、
ー「花梨さんが幸せならば、僕はそれでかまいません…」-
朔太郎という人は、まるで花梨そのものを慈しんでるようで、そう言われている花梨がまた輝いて見えた気がした。不幸にしてやったつもりで、もっと幸せになったということだろうか。
帰り道のコンビニで、たくさんのお酒とおつまみとお弁当を買い込んだ。
「どうせ、家事なんてできませんよっ!ばかやろー!」
歩道橋で叫んだ。
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