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自分が好きな自分
なんだかよくわからないけど、支払いもやってくれて車で送ってくれるというから、お任せした。いつものタクシーより乗り心地がいい気がしたのと、お酒に酔ったせいでしっかりハンカチ男子にもたれかかっていた。ふわふわとす気分で、気持ちを吐き出したくなった。
「……なんで私ばっかり…」
思わず口をついて出た言葉。
「なにが?話してみて」
つまんない男だと思っていた倉本が、今夜はとても優しく思える。話したら呆れられるかもしれない、でも。
「私ね…」
「うん」
「小さい頃からの夢はね、お嫁さんになることなの…」
「うん」
「みんなに、いいなぁって言われる素敵な旦那さんとね、相思相愛でラブラブでしっかり両思いでね、結婚して幸せになるの」
「うん」
「…でもね、誰も私のことを好きになってくれない…」
「ん?」
「私が好きになっても、私を好きになってはくれない……さびしい…」
「そっか…」
「あんたはいいよね?まだ若いからそんなこと考えないでしょ?」
「いや、僕、すずちゃんと同期だよ」
「いいのよ、男は年をとったほうが魅力出るから。女は…女はダメだよ…」
意外と肩幅広いんだなぁと、ぼんやり考えている。お父さんってこんな感じなのかなぁとか思って、焦った。
「ねぇ、すずちゃん。すずちゃんは自分のこと好き?」
「え?何、その質問」
「すずちゃんって可愛いしスタイルいいし、恋人になると自慢できると思う」
「…それは、そうなりたいって頑張ってるから」
「だよね…」
倉本は、そこで黙ってしまった。何か言いたそうで言わないこの感じは、じれったくて、モヤる。
「それがどうかしたの?」
「んー、そうやって頑張るのって誰のため?」
「えっ?それは…ほら、素敵な男性を見つけたいから、かな?」
「でも、見つからない?」
「………なんでだろ、悲しくなってきた」
いろんなことがうまくいかなくて、泣けてきた。お酒のせいか、声を出して泣いてしまった。不意にふわりと頭を撫でられる、それが倉本だとわかっていても、今は何故かとても心地いい。
「すずちゃん、自分の好きな自分になろうよ。すずちゃんが好きじゃないすずちゃんを、ほかの誰も好きになってくれないと思うよ。厳しいこと言ってるのはわかるけど…」
___私が好きな私?
「それができたらさ、すずちゃんのこと、本気で好きだって言う人があらわれるよ、きっと」
クスッと笑いながら私を見る倉本。
「なんか…」
「ん?」
「なんか、ハンカチ男子のくせに偉そうだね」
「うん、好きな女の子にはいつも笑っててほしいから」
「え?」
「なんでもない。あ、着いたよ、このマンションでいいの?」
見慣れた自分のマンションの前に着いた。
「あ、そうそう!ここ」
「部屋まで送ろうか?」
「いいわよ!ハンカチ男子にそこまでしてもらわなくても。帰れます」
「じゃ、おやすみ、すずちゃん」
「はいはーい、またね!」
その夜は、とてもいい気分でぐっすり眠れた。
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