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変わる
日下千尋という女性と、何度か会話をするようになった。私より少し年上らしいけど、話しているうちに気が合うことがわかった。プライベートでも話をするようになり、たまたま時間があってランチを一緒にすることになった
「初めて芳川さんを見た時ね、なんだかシンパシーを感じてしまったんだ、私」
天ぷら定食を注文したところで、千尋が話し始めた。
「え?どんなところがですか?日下さんはとても仕事ができるキャリアウーマンで、私なんかとは全然違うと思うんですが」
「キャリアウーマンか。そんなふうに見えるってことは私も多少は成長したってことかな?」
「成長ですか?」
「そう。私は最初に入社した会社の志望動機がね、好みの人がそこにいたからだったの。なんていうか、女は可愛くあざとくいい男を捕まえるのが幸せだと勘違いしてたのよね」
___あ、少し前の私と同じ?
「えっと、でも今は?」
「今はね、もちろんお洒落もしたいけど、それより自分がどこまでできるか?ってことに挑戦してるとこ」
「挑戦、ですか?どんなことを?」
「もともと、男性に頼り切って生きていた母親のことを軽蔑していて、そんなふうになりたくないって思ってたんだ。だから勉強もしたし資格も色々とった。今はそれを活かして私なりの居場所を見つけて、さらにステップアップしたいなと」
そこもなんだか似ている。
「勉強に資格ですか…それで転職したんですか?」
「うん、いいタイミングで新しく立ち上がる会社があって、そこに入れてもらったんだ」
キラキラしてるな、と思った。これがいい女なんだと思った。そして訊きたいことが浮かんだ。
「ひとつ、訊いてもいいですか?」
「なぁに?」
「日下さんくらいデキる女になると、男性とか…彼氏とかいなくても、しっかり生きていけそうですよね?」
「いや、まったくそんな話がないと寂しいかな?でもね、依存することはないと思うから、恋愛に振り回されることはないかもしれないね」
すとん!と腑に落ちた気がした。なんだか、わかった気がした。私は周りに振り回されてたんじゃなくて、私自身が勝手にフラフラしてたんだと。
「恋愛もしたいけどそれ以上に、仕事でも自分なりの結果を出したい、と思うの、今は。それがあれば、多少のトラブルがあっても自信を持っていられそうでしょ?」
「はい、わかる気がします」
「だからね、最初に芳川さんを見た時、昔の自分を見てるようで、心配になっちゃったんだよね。だから、初対面であんな失礼なこと言って、ごめんね」
「ううん、そんな…。教えてもらえてよかったです。こうなったら、私、無敵の女を目指すことにします」
「うん、頑張って!そうやってれば不思議と、素敵な男性もあらわれたりするんだからね」
そう言う千尋の左手には、指輪が光っていた。
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