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「どうせ、削除したんでしょ?」
「そんな暇はなかった、みんなも見ていたでしょ?」
その場にいた数人が、黙ってうなづく。
___そんなはずはない!
「見せてください、その写真フォルダを」
「いいですか?部長」
「あぁ、構わないよ」
自分で確認しなさいと、営業部長のスマホを渡された。写真フォルダ内を確認したら、柴犬の写真ばかりが並んでいた。
「……」
「どうなの?写真、あったの?」
「…いいえ」
「気が済んだ?部長の側から言わせて貰えば、あなたのしたことは下手すると冤罪よね?わざと転んで部長をセクハラで訴えたかったの?その靴とスカートだと、そんな魂胆があったんじゃないかと疑われても仕方ないってことになる。これからは、できるだけ仕事しやすい服装にしてくださいね」
カッと顔が熱くなり怒りと悔しさで涙が込み上げてくる。周りで見ていた人たちから、ざわざわと非難めいた言葉が聞こえてきた。
___違う、そんなんじゃない!
「なんだ、勘違いか」
通りがかりに入ってきた社員達は出て行った。
「まぁまぁまぁ、もういいから、ね!疑いは晴れたわけだし。僕もタイミング悪かったから、もう、ね!」
「そうですね。時間の無駄ですから、先へ進みます」
くるりと背を向けて立ち去る花梨を見た。
___よく見たら、男っぽいじゃん
パンツスーツとローファーしか履けないんだと思った。あの身長だと、私みたいにヒールを履くと部長クラスの人も、見下ろすことになるだろう。それにしても、みんなの前で恥をかかせるなんて腹立たしい。
___絶対いつか仕返ししてやるんだから!
「大丈夫?怪我してない?」
そばにいた同じ新入社員の男がハンカチを差し出してきた。一応受け取っておく。
「あ、ありがとうございます、あっ、ごめんなさい」
少しよろけてしまったのは、私を見るその新入社員の男の目にいやらしさが見えたから。わざとボディタッチをしてやる。
「医務室、行きますか?病院は?」
「いえ、いいです。またあの講師の先輩に睨まれたくないですから」
泣きそうな顔でしゅんとして見せる。
「そうですね、あの講師は僻んでるんですよ、その…あなたの可愛らしさを」
___可愛いのはわかってるけど、あなたって呼ぶな
心の中で毒づく。顔も身長もイマイチ、ましてやお金なんかないだろうその男には用はないけれど。
「私が悪いんです、すみませんでした」
「また何かあったら言って、力になるよ」
___それはせめて、出世してから言ってよ
「はい、頼りにさせてくださいね」
心にもない言葉ととびきりのスマイルで、連絡先だけは聞いておいた。
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