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接近
それから、その男性のことを調べた。名前は萩原駿、28歳。花梨と同じ年齢らしい。仕事ができるらしく、企画開発と営業と両方に籍があり、両方で係長クラスの権限があるとか。
書類回収の時以外でも社内を歩き、萩原駿に近づくための情報を集める。どうやら篠原花梨とは結婚を前提に同棲しているらしいとわかった。
ほんのたまに、2人が話しているのを見かけることがある。何を話しているのかわからないけど、笑っていない時もあるからたまには喧嘩してるのかもしれない。ラブラブというほどでもない雰囲気から、私にもチャンスがあると踏む。
「あ、すずちゃん、ちょうどよかった。今時間ある?」
駿と花梨を見ていたら、不意に話しかけてきたのは、あのハンカチ男子だった。こっちは用事なんてないけどと思いながらも、邪険にはできない。見える範囲に萩原駿がいるから。
「え?あ、少しなら」
「よかった。あのさ、来週の金曜日なんだけど、定時後時間空いてない?」
___いきなりのデートの誘い?それは無理!
なんて言って断ろうか、料理教室?美容院?理由をあれこれ考えていたら、誰かが近づいてきた。
「よぉ、倉本!何?すずちゃんと知り合いなの?」
話に入ってきたのは駿だった。
「えぇ、研修の時にちょっと…で、来週の懇親会に誘おうかと」
「そっか!それはいい!是非とも参加してほしいね。若くて可愛い子なら無条件で参加オッケー!むしろこちらからお願いしたい」
「飲み会、なんですか?」
「そ。新入社員歓迎会も兼ねて、これから仲良くしたい人集めてさ、楽しくやろうってことで企画してんの、どう?すずちゃん」
どうやら駿も参加するらしい。これは近づける絶好のチャンスだ。
「もちろん、参加させてもらいます。うれしいです」
えへっ♪と笑顔を振りまく。
「やったね!今年一番の可愛い子が参加してくれるなら、盛り上がるぞ。じゃ、詳しくは倉本から聞いておいて」
「あ、あの、どうして私の名前を?」
「俺ね、可愛い子の名前はすぐおぼえるの。芳川すずちゃん、よろしくね。俺は萩原駿」
手を差し出されて握手をする。バスケでもやっていたのだろうか?駿の手は大きくて安心感があった。
「よろしく、お願いします。萩原さん」
「駿でいいよ。じゃ、あとは倉本、よろしくな」
スマホが鳴ったらしく、駿はその場から離れていった。横で手帳を出して何やら書き出している倉本(ハンカチ男子の名前を今知った)が、書き終えたメモを渡してきた。
「これ、時間と場所。それから僕の電話番号」
「どうも、ありがとう」
「どういたしまして。僕はもう少し人数集めてくるよ」
スタスタと立ち去る倉本を見送る。
___グッジョブ!!ハンカチ男子!
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