接近

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懇親会という集まりに参加することに決めてから、美容院を予約した。定時になる2時間前の予約だ。職場には“虫歯が痛くて早退して歯医者さんに行くので”なんて適当な理由をつけておいた。 「こんな感じでいいかな?」 美容師さんに、合わせ鏡をしてもらって後ろ姿も確認する。 「おくり毛が色っぽいでしょ?すずちゃんの可愛さと色気と両方出てると思うよ」 「うん、ありがと。これで今夜は楽しめそう」 学生時代からの馴染みの美容師さんは、いつも私の思い通りに仕上げてくれる。今日は出会いを求めての懇親会だと伝えたら、緩くアップにしてくれた。こめかみから流した細い毛束でクルクルとカールもしてある。 美容院を後にして、デパートのレストルームで服を着替えて荷物をロッカーに預ける。香水をほんのり付けて、指定された場所へ向かい店には入らず時間が過ぎるのを待つ。少しだけ遅れて注目を浴びるための作戦だ。 懇親会のお店が見えるファストフード店から、入り口を見ていた。最初にやってきたのはハンカチ男子の倉本。 ___ま、下っ端だから当然ね それから営業部で見かけた男たちがちらほらと… ___え?あの人も? ゆったりしたサマーセーターにフレアのロングスカートと踵の低いサンダルで現れたのは、経理部の先輩の山中亜里沙。それからその友達らしい女が3人。 ___勝った! 誰と比べても、私が一番男ウケするはずだ。少し遅れて萩原駿の姿が見えた。私は急いで後を追って入る。 「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか?2階の奥の個室になります。階段からどうぞ」 カウンターの奥にある細長い階段から二階へ上がると、先に部屋に入ろうとしている駿を見つけた。 「萩原さん!」 「おぉっ!すずちゃんも今?」 「はい、少し遅れてしまいました」 追いついて駿と並んで個室の入り口を開けた。 「萩原先輩!待ってました、こっちへどうぞ」 倉本は下座にいて、駿を招き入れる。 「ほら、いこ、すずちゃんも」 「え?あ、私は…」 恐らくここにいる女性の誰よりも下っ端の私は、一応、謙遜する。 「ここが空いてるわよ、芳川さん」 トントンと席をさして、自分の隣をすすめてきたのは亜里沙。 ___私の引き立て役、やってもらいますか 「亜里沙先輩、ありがとうございます」 駿とは一つ空けて斜め前の席だ。それでも構わない。問題は帰り際なのだから。 「それでは全員揃ったところで始めたいと思います」 気軽なイタリアンのお店で、男性5人、女性5人の懇親会という名の合コンが始まった。
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