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萩原篠原
簡単な自己紹介から始まって、雑談に入っていく。私の目的はもちろん萩原駿ただ一人。だけど、そんな心のうちはバレないように、できれば他の男に興味があるように振る舞う。
「ね、すずちゃんてさ、彼氏いるの?」
営業部の、誰だっけ…名前を聞いてなかったけど、中肉中背中くらいの見た目の3中男が話しかけてくる。
「いないんですよ、もちろん学生の頃はまぁ、いましたけど社会人になってからは…」
どこまでを彼氏と呼ぶのかわからないけど、デートするだけなら何人かいたし、セックスする相手もいたし、好きだと言ってくれる人もいた。それらがだいたい時期がかぶっていたのは、私のせいじゃない。卒業した時に全ての人と縁を切った。しつこいのも何人かいたけど。
「そうなの?じゃ、今はフリー?俺、立候補してもいい?」
「そんな…まだお会いしたばかりで何も知らないし」
「これから知ってくれればいいからさ、どう?」
お酒のグラスを持ったまま、私の隣へと場所移動をしてきた。
「ごめん、山中さん、ちょい席変わってよ」
「もう、仕方ないなぁ…」
とか言いながら3中男と席を代わる亜里沙。
___ちょっ!萩原駿の隣?そこは私が狙ってたんだけど
それでも、そんなに心配はない。どう見ても駿が、亜里沙に興味を持ちそうにないからだ。他の3人の女子はみんなそれぞれ男たちと他愛もない話で盛り上がっているようだし。
「あれ?もしかして、萩原先輩のことが気になる?」
隣に座った3中男が、私の目線を辿って言う。
「あ、まぁ…。いわゆるイケメンですよね?モテるんだろうなぁと思って」
「あー、やっぱり?萩原先輩がいると女子はだいたい先輩を見るんだよねー。でもね…」
そこで声を低くして、私の耳元で話しを続ける。
「萩原先輩は、同棲してる彼女がいてさ。そろそろ結婚するんじゃないかって噂だよ」
「彼女いるんですか?」
とぼけて訊く。
「そう。ほら、知らないかな?萩原先輩と同期で篠原花梨って人。背がすらっと高くてショートヘアで、ちょっとモデルっぽいんだよ。萩原と篠原で、ぱっと見の苗字も似ててさ。2人並ぶとお似合いだなって思う」
苗字は関係ないだろうがと思うけど。
「そうなんですか…。美人さんなんでしょうね」
「まぁね。すごくモテたみたいだよ、萩原先輩と付き合うまでは。でも今はお互いステディらしい。だからさぁ、先輩のことは諦めて俺と付き合わない?」
その後もなにか話しかけてきたけど、私の頭の中は別のことでいっぱいだった。
___あんなにいい男なのに、こんな会に参加を許すなんて私にはわからない
これじゃまるで空腹の魚たちの釣り堀に餌を投げ入れているようなものだ。
___どうやっていただこうかな?
お酒は飲めるけど、酔わないように控えめにしていた。
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