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「いやぁ、今日は繁盛したね、マスター」
先ほどまでの混雑具合は凄かった。
お昼を過ぎておやつ時くらいまで、ひっきりなしにお客さんが入るので息をつく暇もなかった。よくも一人でここまで捌けたものだ。
ただそれも、今は一転して凪。
夕方前のこの時間になると、一人もお客さんがいなくなってしまった。
「マリアよ。まだ仕事中なんだから、少しは掃除とかしてくれ」
「えー、ちょっとくらい休ませてよ」
眞梨明は抗議の視線を向けるが、にらめっこでマスターに勝てるわけもない。
働きたくないが、大学四年生というのはお金がいるのだ。
来月にはTDLだし、卒業旅行はゼミとサークルで2回はあるだろう。
というわけで、早上がりの交渉もナシだ。
就活も終えた眞梨明は、いよいよ残り365日を切ったモラトリアムを謳歌すべく全力を尽くす期間に向けて稼がねばならなかった。
「はいはーい。モップ取って来ますね」
やれやれしょうがない。
本当はもうコーヒーカップより重いものは持ちたくない。面倒なお仕事はメンズに任せてしまいたい。が、生憎と今日のシフトは眞梨明一人だった。
諦めて立ち上がったちょうどその時、店の玄関のベルが力なく鳴った。
「いらっしゃいませ~!」
「いらっしゃい」
ナイス来店!
お客さんが来たら接客に集中しないといけないから、店のモップ掛けなんて仕事は後回しにしても許される。
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