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「マスター!」
「あいよ。大盛にする? サービスしとくよ」
「え、ホントですか? お願いします!」
またも、真紀はぱあっと表情を光らせて返事をしている。
わかりやすく愛嬌のある子らしい。マスターの愛想が良くなるものもわかる。
「あいよ」
マスターは厨房に引っ込んでコンロに火をつけた。
鉄とステンレスがぶつかる音が小気味よく、眞梨明はこの音を聞くのが好きだった。
「それで、今日はどんなところ受けてきたの?」
他にお客さんもいないので、眞梨明は雑談に興じることにした。
下手に席を離れてしまって、また掃除をさせられてもかなわないし。
「セーフティ.webっていう、IT企業なんだけど」
「うそ! あたし、4月からそこだよ! 受かってたら同期じゃん!」
真紀の口から出た会社名は、眞梨明の内定先であった。
まさかの偶然に思わず声をあげてしまう。
「あ、う、受かってたら……」
「あ、いや、ゴメンごめん」
思わぬ言葉がクリティカルしている。
「良い会社だなとは思ったけど、マリアちゃん羨ましいよ」
余程自信がないのか、真紀は俯きがちに溜息をひとつ。
「まだ、結果でてないんでしょう? わからないじゃん」
「うーん」
眞梨明と一緒なら、一次面接はオンラインだったから。真紀が受けてきたのは東京にあるオフィスで行われた二次面接だったのだと思う。
目の前で面接官の姿が見えるから、余計に結果を勘ぐってしまうらしい。
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