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上野に小飼育舎から追い出されてしまった牟児津と瓜生田は、次にどうするべきかを考えていた。生物部の部員たちは小飼育舎にも部室にもいないので、おそらく大飼育舎にいる。話を聞くためにそこへ向かうべきか。しかしこのまま行ったところで、先ほどの二の舞になるだけだろう。2人とも風紀委員でない上に、牟児津に至っては事件の容疑者である。生物部員にしてみれば、話をするどころか現場に近付かせたくもないだろう。
「うりゅ〜、どうしよ〜」
「う〜ん、ただでさえムジツさんが容疑者だから話を聞きにくいのに、みんな作業で忙しそうだし……こういうときは」
「こういうときは?」
「大眉先生に助けてもらおう」
「……なんでつばセン?」
つばセンとは、牟児津のクラスで現在担任を務めている大眉翼のことだ。教師としてはまだ若く生徒からナメられがちだが、その分生徒との距離は近く悩みを相談する生徒も何人かいるらしい。そして牟児津と瓜生田にとっては、黒板アート消失事件に関する秘密を共有する間柄だった。
そして牟児津は知らないが、瓜生田の姉である瓜生田李子の恋人でもある。その事実は大眉にとって、恋人の妹である瓜生田李下に対する弱みであった。
「先生が話を聞きに来たら、作業を止めてでも話をしてくれるでしょ」
「まあそっか。じゃあつばセン連れて来よう!たぶん職員室にいるはず!」
「ああ。ムジツさんはここにいて」
「え、なんで」
「川路先輩が帰ってきたときにいないとマズいでしょ。私はお手洗いに行ってることにしといて。それじゃ」
「あっ、えっ、やっ、うりゅっ、まっ」
唐突に置いてけぼりにされた牟児津は、引き留める言葉の1つも思い浮かばず、笑顔で去って行く瓜生田にただ手を伸ばすだけだった。そしてその姿が見えなくなった途端に、一刻も早く帰ってきてくれという願いが湧いてきた。もしいま川路が帰ってきたら、牟児津は気絶してしまうかも知れない。
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