13人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
約束の時間より5分早くマンションに到着。
迷ったけれど2501の後、通話ボタンを押す。
中へ入る自動ドアが開き、エレベーターで部屋へ到着。
扉を開けて出て来たのはエメラルドグリーンの瞳にブロンドの髪を持つ中学生くらいの少年。
「初めまして。タクミです」
「お入り下さい」
通された部屋はすべてが白一色。
床も壁も天井もブラインドも照明器具も家具も何もかもだ。
目が眩みそうになる。
20畳程の広い部屋の一角には白いソファーと白いテーブル、反対側には白い食卓テーブルと白い椅子が置かれている。
その他にあるモノは、白い電子ピアノと白い空気清浄機。
まるでモデルハウスのように、余計なモノは何もない。
「好きな椅子におかけ下さい」
俺は食卓テーブルの椅子に腰掛けた。
「モニカを連れて来ます」
少年はそう言った。
彼が連れて来たのは腕時計。
「腕につけて下さい。モニカは、僕の母です。僕が物心ついた時から、このカタチです。僕の大切な、家族です。見かけは腕時計ですが、心は人間です。よろしくお願いします」
「いいのか? そんな大切な存在を初対面の俺が腕につけても?」
俺は不安に思った。
少年は無言で、その腕時計を俺の左手首に装着した。
すると、おそらく骨伝導で腕時計は俺にこう語りかけてきた。
『驚かせて、ごめんなさい。モニカです。とりあえず出かけましょう。詳しいことは歩きながら話します』
モニカが、そう言うので、俺は腕時計を覗き込んで
「それじゃ、出かけましょうか」
と囁いた。
「よろしくお願いします」
少年は心配そうにモニカを見つめている。
「任せろ。俺は命に誓ってモニカさんを大切にする。早目に戻るよ」
少年は潤んだ瞳で、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
俺は彼の両肩に手を置き、手のひらの体温と指先の力で、しっかり自分の気持ちを伝えた。
「僕はジャッド。何かあったらすぐ電話して。初めに電話した番号。わかるだろ?」
「ああ。偉いなジャッド。君は頼もしい」
ジャッドか。
フランス語で翡翠を意味する。
彼の瞳の色だ。
最初のコメントを投稿しよう!