失恋タル 第4話

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「話の内容は理解できているつもりだ。ただ、わからないのは、俺に依頼したいのはジャッドのことか? それともモニカさん自身のことか?」 モニカはまた語り始めた。 ☆ ☆ ジャッドはまだ14歳。 中学2年。 精神的にも肉体的にも、とても不安定な難しい年頃。 テオは、とても心配して少しでも時間があればジャッドに電話してくる。 ジャッドは、その電話を喉から手が出るほど待っているくせに、その気持ちを素直に伝えられず強がっていて、テオの言葉に反発したり喧嘩腰になったりしてしまう。電話を切った後で、時々、泣いている。 私は、ジャッドの腕に装着されていない限り、ジャッドに呼びかける事ができない。 彼の様子を見る事が可能な場所に置かれていれば広角レンズで、およその様子を知る事は可能。 でも最近は、誰もいないテオの書斎の机の引き出しの中に入れられている事が多い。 去年までジャッドは常に私を身につけていた。 親離れしたくなる年頃だから。 大人になってきたと思えば、嬉しいことなのだが、私は不安でならない。 テオは、ジャッドが求めない時は、ずーっと私を身につけていた。 私は常にテオか、ジャッドの腕にあった。 ジャッドが寝る時、私をはずすと、すぐテオは私を装着してくれた。 テオは眠る時にも、私を身につけていた。 それが・・ テオは、国際的な機関から「地球平和のため』だからと、どうしても求められて宇宙へ向かう事になり、私は急に机の引き出しという暗闇に置き去りにされる時間が長くなった。 ジャッドは、毎晩、寝る前の30分位しか私を机の引き出しから出してくれない。 たまに身につけてくれるけれど、3日に1度も身につけてくれないこともある。 思春期とは、そういうものかもしれない。 その気持ちはわかる。 わかるのだけれど、私は寂しい。 自分では、何一つできない。 小さな腕時計という宇宙に、たった一人、忘れられた星屑のようだ。 次に、いつ、ジャッドが装着してくれるか、ひたすら待つだけが全て。 待って、待って、やっと装着された時には、もう嬉しくて泣き出したいほどの気持ちになる。 けれども私は、その気持ちを正直にジャッドに伝えることができない。 会いたかった。 寂しかった。 消えてしまうのではないかと不安だった。 お願い、私を装着して。 もっと、ずっと装着して。 何も言わないし何も求めないから、ただ、私を装着してほしいの、と、本当は叫びたい。 辛い! 私自身が、寂しくて、どうしようもない。 モニカは、そう言って泣いた。 俺は、そっと右手でモニカを温めた。 「わかるよ。辛いな・・」 俺が、そう言うと、モニカはもっと激しく慟哭した。 AIのモニカに、テオは、なぜ寂しさや辛さを感知させるように配慮したのか? テオの寂しさや辛さを共有するためか? 2人で愛を求め合い深め合うために、寂しさも辛さも必要不可欠な要素だったのだろうか? 自ら動く事も話す事もできないモニカにとって、それは非常に残酷な仕組みだ。 永遠に愛する人と一緒にいられるなら、それもいい。 だが、こんなふうに一人で耐えるしかない時、その能力は害でしかない。 自らを傷つける刃物にしかならない。 モニカは、憂さ晴らしに一人で出かけることも、美味しいものを食べることも、歌うことも走ることも、何もできない。 「モニカさん。何がしたい?俺にできることなら何でもする」 『タクミさん。モニカでいい。さんはいらない。モニカって呼んで。タクミさんの声はとても響く。タクミさんの声は私の寂しさを満たしていく・・何か話して』 「モニカ。君は眠ることができるのか? つまり、その、電源を切るとか入れるとか、そういう事で寂しさを忘れていられるなら、必要のない時には眠れたら気持ちが楽になるんじゃないのかと?」 『私は自動巻きという腕時計特有のシステムと電池との両方のエネルギーで作動している。作られてから、そのどちらのエネルギーも切れたことはなく、テオが小まめにメンテナンスしてくれていた』 「テオはジャッドのために君を家に置いていったんだろうが、その選択は正しかったのだろうか?」 『私には、わからない。テオはずーっと宇宙へ行くことを拒んでいた。それでもどこのどんな組織かわからないけれど、テオ意外にその仕事をこなせる人間がいないからと・・頼まれて。万が一、私を身につけたテオに宇宙で何かあればジャッドは本当にひとりぼっちになってしまうと考え、私をジャッドの腕に装着して行ったのだと思う。ジャッドのためには、それが最良の判断だと思う』
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