失恋タル 第4話

8/10
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
いつの間にか熟睡していた俺は、ジャッドに揺り起こされた。 「タクミさん、起きて! モニカが、モニカが作動しないんだ・・」 「何だと?!」 ジャッドは左手首にモニカを装着して、瞳は涙でいっぱいだった。 「腕を振りながら何度も呼びかけろ! 自動巻きなんだろ?!」 ジャッドは左腕を顔の前で揺らしながら泣き声で叫んだ。 「ママ、ママ、返事して。僕が悪かった。僕がママを放っておいたから・・・ごめんなさい。ごめんなさい。お願いだから・・・ママ、返事してよ・・」 ジャッドは腕を振るのをやめてモニカの応答を確かめようと意識を集中しているらしかった。 何も応答がないのか?! ジャッドはポロポロ涙をこぼすと、俺の胸にしがみついて来た。 俺はジャッドを抱きしめ背中をさすりながらモニカに呼びかけてみた。 「モニカ、俺の声が聞こえるか? イタズラはやめておけ。悪いイタズラなら、もう十分だ。ジャッドは反省している。もう決して、君を置き去りにはしない。隠し事もしない。お互いの心をすべて正直に話そう。なあ、ジャッド。そうだろう?!自分だけで不安を受け止めている君は、強くて優しい。だけど家族ってのは、そんなものじゃない。不安も、悲しみも、迷いも何もかも一緒に受け止めて、愛も痛みも分け合うものだ。それは弱さではない。甘えではない。真実を伝える勇気は、むしろ本当の強さだ。本当の優しさだ。堂々と真正面から真実に向き合わなければ、次の一歩を踏み出すことはできないぞ。けれども君は、もう自分の力で大きな一歩を踏み出した。それは、俺を呼んだことだ。よく頑張って、俺を呼んだ!さあ、その勇気があるんだ。モニカに真実を伝えるんだ。安心しろ。俺が君のすべてを抱きとめている。この腕の中で、モニカに真実を伝えなさい」 ジャッドは、俺の胸に顔を押し当てたまま、泣き出しそうな声で語った。 「1ヶ月前、パパのスマホから夜中に電話が来た。出ると知らない女の人で、医者だと言った。宇宙船内で小さな事故がありパパは怪我をして自分では電話することができない状態だと言った。回復したら、すぐ本人から電話させるからと言った。1週間待っても電話が来ないので、僕は待ち切れなくて電話をかけた。電源が入っていないというメッセージが流れるだけだった。それから毎晩、電話をかけているけれども通じないんだ。もし、もし、パパに何かあったら・・・僕は本当にひとりぼっちになってしまう・・」 それだけ言うとジャッドは声を殺して泣いた。 俺はしっかりとジャッドを抱きしめた。 ジャッドの震えながら鼻をすする音に混じって、もう一つの泣き声を聞いた。 俺の胸に押し当てられたジャッドの額や、ジャッドを抱きしめている腕の骨を伝わって、モニカの泣き声が伝わってきたのだ。 「ママ! ああ、ママ・・」 ジャッドは、もう堪えきれず、ううぅぅと声を出して泣いた。 俺はただジャッドとモニカを抱きしめながら神さまに祈った。 神さま。 どうか、この愛に満ちた家族をお守り下さい。 テオが回復して、1日も早く、ここへ戻って来られますように!
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!