失恋タル 第4話

9/10
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
ふと、モニカの腕時計を見たジャッドは、俺の顔を見上げて言った。 「あ・・12時間以上経ってしまった。タクミさん・・」 「もし君が望むなら、俺はまだ時間はあるよ。朝食にしようか。俺、腹減ったよ」 俺は、そう言ってみた。 みんなの張り詰めた気持ちを一度、開放しなければと思った。 今、深刻に思い詰めたところで状況を改善できる訳じゃない。 トーストを焼き、ジャッドは俺の分までベーコンエッグを作ってくれた。 なかなか上手にできている。 時々、ジャッドはモニカと何か話しながら、落ち着いた様子で、俺にコーヒーまで淹れてくれた。 窓の向こうでは静かな海がキラキラと太陽の光を反射していた。 神さま、この健気(けなげ)な少年に、どうか明るい未来をお願いします。 彼の幸福のためなら、その不運のカケラの一つを俺が引き受けます。 海と空を見ながら、ぼんやりと、そんなことを思いコーヒーを飲んでいた。 ジャッドの電話が鳴った。 「・・・パパ! もう大丈夫なの?」 ジャッドの美しい翡翠色の瞳が、明るく見開かれた! 砂漠で水を得たようにジャッドは父親との会話に夢中になっている。 テオは回復したらしい。 良かった! 電話を切ったジャッドは、子どもらしい、はしゃいだ声で報告した。 「パパ、元気だったよ。秋には家に帰れるって」 「よかったな」 胸が熱かった。 こんな愛に満ちた奇跡の時間に立ち会う事ができた俺は、満ち足りた気持ちだった。 心から神さまに感謝した。 「あの、タクミさん。また時々、来てくれますか? 僕、ピアノ教えて欲しいんだ。『スマイル』弾けるようになりたい」 「いいね。パパが帰って来たら、パパの歌に合わせてカッコよく演奏してビックリさせてやろう!」 「それ最高! あー ワクワクして来た」 その後、近くの砂浜でジャッドとキャッチボールをして、彼と別れた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!