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女性達は昨晩天野と岡本と長い時間過ごす事が出来なかったので、必死に夕食に誘っていた。
仕方ないので私は一人帰路についた。何故かその時、後で連絡しようと思っていたのだ。
一人暮らしのアパートに到着し、荷物を片付けコーヒーを入れる。ソファに座り一息ついて、スマホを取り出し天野と岡本に連絡をしようとした。
「あっ」
しかし、ここへ来てある事にようやく気づく。
「連絡って言っても何を連絡するつもりなの。それによく考えたら、私は二人の連絡先を知らないし」
困ったな、連絡する手段がない。
あまりの阿呆な自分にマグカップを握り絞めたままテーブルにうつぶしてしまった。
付け加えると天野と岡本の二人は営業部で私は企画部。所属している部署も違う。小さな会社だが働いているフロアが違うのでなかなか顔を合わせる事もない。
ランチタイムに社員食堂でばったりなんて、そんなのたまにしかない。
帰宅する時会社のビル出口でばったりなんて、そんなのもっとない。
唯一顔を合わせる事が多いのは企画会議と売り上げ報告会議だ。それらの会議も今の時期は落ち着いている。だから慰安旅行が開催されたのだ。
そんな事もあり、天野と岡本と顔を合わせる事がなかった。
待って……違うかも……
天野と岡本が私を避けているのかもしれない。だって私は……二人の男性と同時に寝る女なのよ。きっと冷静になった天野と岡本は私と距離を置く事にしたのね。
今までは天野と岡本がどんなに仕事も出来て女性に人気だという話を聞いても、仕事に集中していたのに。気がつくと手を止めて二人の事を考える時間が増えている。
思い出すのは主に慰安旅行前。つまり二人と関係を持つ前のやり取り。
会議での表情とか発言と表情。
ランチタイムで隣の席になった時の他愛もない会話。
それでも最後には、慰安旅行での天野と岡本の欲情で濡れた瞳と体が浮かび、私を呼ぶ声が聞こえる。
会社や自宅で何て事を思い出しているの! と、私は慌てて打ち消す。
二人を思い出すと何ともいえない気持ちになるから。
何ともいえない気持ちとは、そうだなぁうーん……フワッとなって最後に少しだけ、キュッと胸の辺りが絞り上げられる様な……いや、絞り上げられるって何だ。締めつけられる様な。
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