08 夢の話

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08 夢の話

 天野と岡本は私の話を聞いて挙動不審になる。  グラスを持ち上げてワインやミネラルウォーターを飲もうとするが、首を傾げて再びグラスを置く。それから数分。二人は『考える人』のポーズで固まる。そして時折呟く。 「それならランチタイムで聞き出した話は全て誤解?」 「どうなっているのですか。彼女らの勝手な想像から生まれた誤解って事?」 「そうなると一体どこまで想像が広がるんだあの二人は」 「とはいうものの倉田さんの事が結局好きなんですよねあの二人も。だから注目している分勘違いするというか」  天野と岡本はそれぞれ自問自答しているが、同じ思考傾向なのかそれぞれの呟きが会話として成立している。  天野と岡本が怒っていたのは大きな誤解で怒っていたのね。 「ふふふ」  私は二人の誤解が解けて安心すると肩の力が抜けた。ソファに深く座り直す改めて用意してもらった白ワインを一口飲む。  うん。美味しい。このピンチョスも初めて食べるチーズかも。オリーブの実と合う。  モグモグと一人食べていると思い出した様に天野が私に振り向いた。くせ毛風の髪の毛を揺らして首を傾げた。 「それならどうして倉田は俺達を避けていたんだ?」 「んぐっ!」  突然その話を振られて私はオリーブの実を喉に詰まらせた。どんどんと胸の辺りを叩いてなんとか飲み込む。びっくりした喉が詰まるかと思った。慌てて白ワインも流し込む。   「そうですよ。僕は婚活をはじめて新しいバンドマンの彼氏が出来たから避けられていると思っていました」  岡本も首を傾げながら私に振り向く。 「えっと、それは……」  急にしどろもどろになってしまう。  視線を自分の膝に落として口を閉じてしまう。  その様子を見た天野と岡本はお互いの顔を見つめて溜め息をついていた。その溜め息はとても寂しそうだった。  やはりこの態度はよくない。素直に言った方がいいのだけれどどう言うべきか。どうもこうも素直に言うしかないわよね。私は意を決して息を吸い込んだ。 「あの慰安旅行の後、連絡をすぐにするつもりだったのよ」  膝を見つめたまま呟く。 「「!」」  私が話しはじめた事で天野と岡本の二人が私に振り返るのが分かった。 「なのに私ったら家に帰ったら連絡先を知らない事に気がついて」 「実は俺も」 「僕もです」
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