佳太 1

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佳太 1

 僕は、彼女の本当の顔を知らない。 コロナ禍で、皆がマスクを 常用する様になってから 彼女の存在に、気づいたからだ。 毎朝の通勤時。 僕は、始発駅から乗るので 必ず、座ることが出来る。 三番車両。進行方向側。 いつも日の光を背にする場所だ。 そして彼女は その三番車両、進行方向側のドアから 乗り込み、端から吊革二つ分の場所に立つ。 僕から観るとやや斜めの場所。 そんなに混んでいないけど 空席も無いこの時間。 駅8個分、同じ空間にいるわけだ。 その日、静かな車内で 突然、彼女のスマホが鳴った。 慌てた彼女が、急いでミュートにするのを 何気なく眺めていた。 その時、何故だか彼女の横顔に 妙な懐かしさを感じた。 そして、ほんの少し 見つめてしまったんだ。 が、とっさに目が合いそうになり そらした。 気がつかれたか? 焦る自分がなんだか 中学生みたいでおかしくもあった。 他の場所で見かけたのか? 記憶を辿ってみるが 思いつかない。 なんだよ。ありきたりな漫画やドラマみたいじゃないか。 自分にツッコミながら、スマホに目を戻すが やはり気になる。 そして、彼女は何事もなく 八つ目の駅で、降りて行った。 その日から、僕のスマホは ただの小道具で スクロールもせず 手のひらに乗せているだけになる。 ストーカーみたいになりたくないが 彼女の一つ一つを確認したくなる。 いや、これストーカーだろ。 と、またもや自分にツッコミ。 毎回見かけるたびに 彼女の情報が 僕の脳内に蓄積される。
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