佳太 1

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きっかけなんてそんなもので 特に特徴があるわけでもない ごく普通の彼女に 勝手に片想い、し始めていた。 もちろん、今まで何度も 恋愛はしてきた。 失恋もしたし 別れを、こちらから告げて 泣かしてしまったこともある。 モデル並みのスタイルの子もいたし 金持ちのお嬢様とか 下町の元同級生とか だいぶ年上の人とも付き合った。 まぁ今から考えると いろんなタイプの女性と 付き合ってきたと思う。 中学からつるんでる 友達の奏(ソウ)は 「お前って女の好みってねぇな。雑食」 って言われたことあったっけ。 電車で乗り合わせる彼女とは ほぼ毎日会えるので 知る得ることが 増える度 ささやかな喜びとなっていた。 気が滅入りがちな仕事に向かう この時間が 僕にとっては、楽しみの時間とも なっていった。 マスクをしていても 分かることはある。 額にかかる前髪。 スマホを見つめる瞳。 時々上下する眉毛。 伏せた目のまつ毛。 マスクのゴムのかかった耳。 ごくごく小さなピアス。 左首筋のホクロ。 逆に素顔が分からない部分。 顔の輪郭。 (ま、かなり小さい気もする) 鼻の形。 (そんなに高くも、無い) 顎。 (丸いのか、尖っているのか) くちびる。 (大きいのか小さいのか。     厚ぼったいのか薄いのか) 顔半分が隠されると 外した時の印象って 相当変わるものだ。 去年入った新入社員も コロナ禍でマスク顔でしか 知らないから 社員証の顔写真を見ると 別人に思うことがある。 想像のでしか素顔を知らない彼女に 惹かれていく僕も かなり変わってるよな。 今度、奏と会う約束をした。 久しぶりだ。 この片想いし始めの彼女の話を してみようと思う。
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