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推測
まだ慎二達の所へ戻れない俺は倉庫の窓から見える空を茫然と見ていたが、突然ズボンの右ポケットが振動して携帯を取り出す。
「·················ぁ、」
画面を見て俺は直ぐに出た。
「も········もしもし」
《 怜? 》
「〜〜〜〜〜〜ッ、」
電話先の人物の声で泣きそうになる····でも、今は泣いてる場合じゃない。
奥歯を噛み締め、潤んだ目から流れそうな涙を堪える為に天井を見た。
「先輩すみません·····ちょっと、、先輩の声···聞きたくなって。すみません、すぐ終わらせますからっ」
(俺、声·····震えてないかな?)
《···············何も悪い事して無いから謝るな。俺は大丈夫だから。で、どうした?》
先輩の優しい声音に凄く安心する。
「あのっ、ぁ···αって········臭いでαやβ···Ωって分かりますか?」
どれから聞こうか、今回の事をどう報告しようか悩みながら最初に思い付いたのがこれだ。
《·····臭いで?》
「はい、」
先輩は少し考えた後、
《分かる奴は少ない筈。俺を含め大半は分からない》と言う。
(分かる奴は少ない····じゃあ、鳥部はその内の一人って事か)
「αのラットってどーいう症状ですか?」
俺は続けて質問する。すると、
《怜、そんな事聞いてくるなんて·····本当は何かあったのか?》と、不安そうに尋ねられた。
「···································。」
そーだよな、、、
こんな事を連続で聞くのは普通ない·····。
「お、俺が···今から言う事を···············先輩は信じてくれますか?」
もし、俺から誘ったと思われたら···という不安が重くのしかかる。
誘っては無いけどあのクソ野郎とはセックスしてたし、、、
信じて貰えなくても仕方が無いかも·····。
《まだ何の事か分からないが信じるよ。怜が信じてって言うなら俺は信じる》と、意思のこもった返事が返ってくる。
俺はそんな先輩の言葉が本当に嬉しくて、
「ッ、ありがとう···ございます、、前もって言いますが俺からは誘ってません。お願いです、それだけは信じてくださいッ」
信じて欲しい一心で先輩に先程の鳥部との出来事を話す。
簡潔に話し終えると《·····項は?》と、先輩は真面目な口調で尋ねてきたので「噛まれてません!」と返した。
《はぁ······なら···取り敢えず良かった···。最初の怜の質問に戻るが、ラットはΩでいう発情期と変わらない。主にヒートにあてられてなるが、その際·····凶暴性や独占欲が増して危険なのは確かだ》
「そーなんですね、じゃあ鳥部は何であんな行動をしたんでしょうか?」
逃げながらずっと考えていた事を先輩に聞く。
自分も久坂もヒート状態じゃ無い、、、、
鳥部は普段·····変な事をたまにしてきても、ここまで過激な行動は無かった。
《·····推測で良いなら、》と先輩は言い、俺は推測で構いませんと伝える。
「その鳥部は誰かに誘発剤を飲まされたか打たれたんじゃないか?」
「⎯⎯⎯⎯⎯⎯ぇ ?」
誘発剤を飲まされたか、打たれた?
先輩の言葉に俺は驚き過ぎて言葉を失う。
誘発剤は無理矢理ヒートやラットを引き起こす代わりに体調がホルモンバランスの関係で悪くなる·····。
確かに···先輩のいう推測なら鳥部の体調不良も、あの危険行動も納得出来る·············。
でも、誰がそんな事を?
「因みに、怜以外でΩはその大学にいるか?」
先輩の質問に俺は、
「っ! 、います!!他は分かりませんが、友達に一人」
久坂はチョーカーを着けてはいるが、あれじゃラット状態のαなら噛みちぎるかもしれない。
そしたら··········久坂は無理矢理犯されて、最悪···ヒートを誘発されて番にさせられるかも、、、悪い考えが頭を過ぎる。
俺は急いで鞄から先輩に貰った首輪を着けると「先輩、俺っ久坂の所に行きます!」と、立ち上がった。
友達が危ないのに自分だけ此処で避難しているのは嫌だ。
《え?!ちょっ、怜?!く、首輪はしたか?!》と、先輩はかなり慌てていた。
「しました、終わったらまた連絡します」
「待て!!れ────────·····」
先輩が何か言っていたが途中で電話を切った。
「ぇ···············何だ、、これ ?」
先輩との電話が終わり、携帯の画面には不在着信が二十件以上あった。··········見ると全て慎二からだ。
(何か·····あったんだ)
俺は倉庫の鍵を開けて勢いよく飛び出し、慎二に電話を掛け直す。
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