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看病
何かがおでこに貼られる。
「 ···································。」
目を開けたいのに瞼が重くて開けられないし、
肩から上が沸騰してるみたいに暑くて、逆に肩から下は凍えるんじゃないかっていう位寒い·····。
そんな動けない俺の頬に手が触れた。
(───冷たい···)
「 き·····もち ぃ、」
母さんかな?冷え症で一年中手が冷たいし。
そっか、俺今実家に居るのか·····
いきなり熱があるから迎えに来てって電話貰ったから母さん驚いたろーなぁ、、、
元気になったら説教されそー·····
あ、風邪治ったら慎二とちゃんと話さないとな、、
それから··········それ か·· · ·ら·· ··· ·· ·· ·
「······························。」
頭を撫でられて俺の意識はまた闇の中に溶けていく⎯⎯⎯⎯⎯⎯·····
「 ん、」
寝ていた様で今度は目が開けられたが、まだ熱が高いのか視界はボヤけてグラグラする·····。俺はそれに耐えられなくて直ぐに目を閉じた。
鼻も·····両方詰まってて口から空気を吸おうとするけど、肺なのか気管支なのかそこら辺が痛くて呼吸するのもツラい···············。
「···············か あ··さ···ん ?」
(どこ?)
「俺は母さんでは無いね」
「!?」
母さんだと思ってたのに、男の声が耳に入り慌てて起き上がろうとする。
しかし、途中で身体が耐えられずベッドに倒れた。
「はぁ··········怜、大人しくしないと駄目だろ」
聞き覚えのある声で話すその人は、起き上がろうとして乱れてしまった布団を綺麗に整えて俺に被せる。
「 け さ ····ん·····ど して···? [けーさん、どうして?]」
「後で教えるから、取り敢えず水分とご飯·····あとは着替えだな」
先輩は一度立ち上がり、俺の視界から消えるが直ぐに戻ってきた時「着替えから」と、先程整えた布団を半分にたたむ。
(さむっ)
身体の半分が布団を被っていない状態でかなり寒い··········。歯はガチガチと音を鳴らし、身体はブルブルと震えた。
俺は耐えられず身体を丸めてダンゴムシの様に縮こまる。
それを見てた先輩は「直ぐ終わらせる」と、ベタベタになっている俺の服を脱がし、温かいタオルで身体を素早く拭いて服を着せてくれた。が··········ズボンもジャージもかなりブカブカだ。
「はははっ、やっぱりブカブカだな」
先輩は俺を見て笑う。
「·························。」
(これ着せたのは先輩だろっ)
普段の俺なら拗ねて何かしら言い返すが、今はそんな元気は無い。仕方ないので黙って先輩を睨みつける。
「ごめんごめん、あー···怜に言い返されないと何か寂しいもんだな」
先輩は苦笑して、ご飯食れるか?と尋ねてきたので俺は頷く。すると「少し待ってて」と先輩は何処かへ行ってしまった。
(····················先輩···料理とか出来るのか??)
かなり不安だ、、、、
体調が悪いのに変な物が出てきたら·····どうしよう···············。
完食出来る気がしない。
「はぁ·····、、」
考えてもしょうがないので、俺は諦めて目を瞑る。
眠気が襲い、もう少しで寝てしまいそうな時、、、
「怜、お待たせ」と先輩が戻ってきた。
眠い瞼を開けて先輩を見ると、手には湯気を上げるお茶碗とストローが刺さったコップが··········。
(お椀の中身を見るのが怖い)
先輩は近くにある机にお茶碗とコップを置き、「身体起こすからな」と俺の背中に腕を回す。そして、ゆっくり上半身を起こし先輩に支えられる様な形で俺は起きたが、その際パーカーの様な上着を肩にかけられる。
「怜、口開けて」と言われ、、、
神様がいるのならお願いしますっ!!!
今日位、俺の願いを叶えて下さいッ!!
マジでお願いです、先輩の·····先輩の料理がゲロマズじゃありませんようにッ!!
お願いします!お願いしますッ!!と、何度も何度も祈り恐る恐る口を開ける。
(昨日、あんな事しなければ良かったッ)
今更後悔しても仕方が無いが·····それでも激しく後悔している。。。
見るのも怖かったので俺は目を強く瞑り、口に入れられるのを待っていると、
「ぶっ、、、ははははっ、大丈夫だよ。湯煎で温めるだけのお粥だ。だからそんなに眉間に皺を寄せて警戒するな、はははっ」と先輩は大声で笑う。
俺はそれを聞いて、願いが·····願いが叶った!
ありがとうございますッ!ありがとうございます!!神様!ありがとうッ!、と心の中で感謝した。
先輩はスプーンでお粥を掬い、フ〜·····フゥ〜···、、と息をかけて「これくらい·····か?」と、俺の口にスプーンを運び、俺はそれを咀嚼する。
(!、これ·····卵粥だっ)
熱はまだ高そうだけど、鼻は現在片方だけ詰まってるおかげでお粥の味が何となく分かった。
俺はもっと食べたくてまた口を開ける。
「ははは、美味しいか?」と先輩は微笑み、俺は小さく頷く。
「待ってろ」
先輩はまたスプーンでお粥を掬うと先程と同じ様にして俺の口に運ぶ。
それは何回か続き、その途中でコップに入ったスポーツドリンクを飲んで、またお粥を食べて、飲み物飲んで·····を繰り返して俺は無事に完食出来た。
「けー さ ぁ とう い す[けーさん、ありがとうございます]」
声がまだ出なくて変な言葉が出来上がってしまった·····。本当は御礼を伝えているのに、、、
「ああ、無理しなくて良い。薬持ってくるけどもう少し起きとくか?」
俺は先輩の言葉に頷き、先輩が支えていたスペースにはクッションが三つ入れられる。
まだ·····視界はボヤけてグラグラするけど、さっきよりはマシで改めて自身が居る部屋を見渡した。
灰色のセミダブルのベッド、壁は全体的に白だが一部は煉瓦の柄がプリントされている壁紙が貼られ、可動式の本棚が二つに·····それから壁に落ち着いた感じの絵が数点飾られている、、、、
ベッドの近くにあるソファはベージュ色、手前にはガラステーブルがあり他の棚等は黒色でオシャレな部屋だった。
(俺の部屋とかなり違う·····大人って、、感じだなぁ)
整理すると、、、
どうやら俺は先輩の家で看病されていて·····母さんじゃなくて先輩が居るという事は保健センターで伝える番号をミスったって事になる··········。
(先輩に申し訳なさすぎる)
迷惑掛けないようにしよう、って決めていきなり迷惑掛けてしまった。
「 ·····はぁ、」
そーいえば、咳は出て無い·····。
喉は潰れてる様だけどこれなら治りそうだ。
(明日、治ってますよーに)
本棚の本を見ていた時、ふと·····近くの棚に写真立てが飾ってある事に気付く。
(家族写真??それともペットのかな?)
興味が湧いてしまい、身体を無理矢理起こすと壁にもたれながらその棚へ向かった。
「···ふぅ、、」
なんとか辿り着いてその写真立てを見る。
写真立ては三つあり、
一つは予想通り犬と笑顔で写る小さい頃の先輩、二つ目は高校の頃の文化祭で俺と先輩が腕を組んで楽しそうにピースサインをしている。
確か····射的で競ったんだけど俺が負けて、串系の食べ物10本奢らさせられた、、、
他のも競って奢り奢られって感じだったなぁ。
(懐かしい、)
思い出して俺は小さく笑い、最後の写真立てを見た時··········思わず「ぇ?」と声が出た。
最後は─────·····
可憐な女性と仲睦まじい様子で微笑む先輩。
(これ、最近かな)
先輩とどんな関係だろ?っと不思議に思う反面·····何故か凄くモヤモヤするし、このモヤモヤは何なのかは分かる。
(契約上の番の癖に·····)
一回寝たくらいで、、、嫉妬なんて··········。
駄目だろ、俺は契約の番だ。
先輩が誰とどーなろうと俺はそれに対して笑顔で祝福しなければならない。
「ぁ、」
····················もしかしたら、、、
先輩が本当に番にしたい人ってこの人なのかも·····。
この前、分家の人達の話しをしていた時「ある理由で断り続けていた」って言ってたし、絶対そーだっ!
「···································。」
確かに·····こんなに綺麗で優しそうな人なら先輩も惹かれるのは分かる。
そっか、、、俺はこの二人の幸せを叶える為に今回契約したんだ。
(·········失恋したな、)
認めたくなかったけど、再会して·····まだ先輩の事が好きな自分が居た。
引きづりすぎだろ、、、ほんと·····。
けど、こんなに素敵な二人は凄くお似合いで、俺は何も持ってないし·····Ωとしても下のゲテモノだ。
なら、二人が幸せになれるように精一杯頑張ろう。
先輩と自分が写る写真立てを見えない様に伏せて、先輩が戻って来る前にさっきまで寝ていたベッドに戻った。
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