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デートのお誘い
土曜日の朝、俺はまた先輩の胸の中で寝ていた。
昨日もまた沢山甘やかされて·····このままじゃ駄目人間になるんじゃないだろうか、、、、
(それとも俺は実家にいる飼い犬の変わり?まあ、可愛がられるのは嬉しいけど)
「 ···············ん、れい?」
眠そうに起きた先輩は悶々と考えている俺を抱き締めて声を掛けてくる。相変わらず先輩からは甘い匂いがして···ずっと嗅いでいたくなるような気持ちになってしまう。。。
(待って俺·····これじゃ本当に犬だ)
「けーさん、おはようございます」
「ん、今何時?」
半分寝惚けた状態で先輩が尋ねてきたので「もう9時ですよ」と、笑いながら言う。
どうやら先輩は朝が弱そうだ。
「そっか·····なあ、怜」
「はい」
(次は何を言うんだろ?朝ご飯の事か?それとも熱を測れか?)
あまり深く考えずに返事をすると「デート行こう」と誘われる。
「·······································え?」
先輩は今なんて言った?
デート·····デートって言ったのか?
看病するから家に来いっと言ったのに?!
「けーさん·····俺、看病される為に此処にいるんですよね?」と、一応確認する。
「そうだ。でも、熱はなさそうだし咳もだいぶ減ったからいいだろ。な、一緒に出掛けよう」
甘さを含んだバリトンボイスが俺の耳元で囁く。
「み、耳元でっ、、言わないでくださいっ」
囁かれた方を手で覆って俺は言うが、絶対顔が真っ赤だ。
「デートに行こう、怜」
折れる事が無く、先輩はまた同じ事を言って俺を誘うが、そもそもデートというものが恋愛経験ゼロの自分にはどういうものか分からない·····。
映画やドラマだと映画館とか海とかショッピングに行ってたよな、、、、
(先輩はイケメンだから、デート慣れしてそーだけど)
「デートって因みに何処行くんですか?」
「そーだなぁ、、遊園地とかどうだ?今だとハロウィンイベントがやってるらしい」
「遊園地··········」
先輩の口から遊園地という言葉が出たのが意外で正直驚いた。しかもハロウィンイベントって·····仮装でもする気なのか?
「俺が遊園地って言ったのが意外?」と、先輩が拗ねながら聞いてきたので「はい、凄く意外です」と、俺は思った事をそのまま答える。
「はははっ、怜はひどいな」
拗ねた表情が笑顔に変わり、何故か俺を抱き締めていた腕に力がこもる。
(遊園地の話をしてるのに、何でこんなに密着させる必要があるんだろ)
「分かりましたから·····とっ、取り敢えず準備しませんか?」と、胸の中から顔を見上げて言う。
この状態は流石に俺の心臓がもたない。
「うーん、もう少しこのままでいたいが·····時間がなくなるし、しょうがないか」
先輩はそう言うと俺の額や頬に数回キスをして背中に回していた手を離す。
(朝から何でこんなに甘いんだッ!!)
先輩と再会してから心臓が幾つあっても足りないし、何回破裂しそうになったか想像できない。
叶わない恋なのに·····期待させるような行動をあまりしないで欲しい。
でも、契約を満了させる為には仕方が無い事はちゃんと分かってる。。。
手を離した先輩はというとベッドから起き上がり、クローゼットを開けて何かを悩んでいた。
不思議に思った俺は「どーしたんですか?」と、ベッドから起き上がり先輩の方へ近付く。
「あー···いや、怜に似合う服どれかなって」と、クローゼットにかけてある沢山の服を見ているが、どれも高級そうでβの家庭で育った俺には一生縁が無さそうな服ばかりに見える。
それに、先輩と俺は身長と体格が違うから着こなせる自信がない。
(やっぱり昨日·····無理にでも家に寄って貰えば良かった)
今更思っても遅いが、こればかりは思っても良いと思う。だって先輩が却下した結果だし、、、
「·············································。」
·····うん。今日のデートは無しになりそーだな、と決めつけて俺は再びベッドに戻ろうと歩く。
「あ、これなら大丈夫そうだ」と、ずっと悩んでいた先輩がクローゼットの中から黒いタンクトップとグレーのセーターを取り出して俺に渡してきた。
見た感じ、タンクトップは着れると思うが··········セーターはぶかぶかになる予感しかしない。
(デート諦めて先輩は俺で遊ぶ事にしたのか?着せ替え人形ですか·····そーですか、そーですか、、)
「けーさん、これ·····ぶかぶかになると思うんですが、、、」
「大丈夫、大丈夫。ぶかぶかになっても似合う似合う」
先輩は何を根拠に俺に似合うと言っているのか不明だ。
今着てる先輩のジャージでさえズボンは引き摺ってるし、上も袖が長すぎて捲ってる状態な訳で·····。
(同じ未来しか想像出来ない)
今の所、、、先輩に対する文句は結構浮かんだ。
が、取り敢えず渡された服を素直に着ようと思い、洗面所で顔を洗う事にする。
「先、顔を洗ってきます」と言うと先輩も「あ、俺も行く」と言って二人で洗面所へ向かった。
「·························怜、目閉じて」
先輩は顔を洗い終えた俺の顔に化粧水を優しく塗る。
化粧水なんて今までした事がない俺は「けーさん、女子力高いですね」と、目蓋を閉じてされるがままで「そーか?乾燥の時期はやった方が良いぞ」と笑いながら先輩は言い、保湿液を上から塗ってくる。
それから【女子力】について分かる訳もない男二人は部屋に戻るまでそれをテーマにして話し、戻った後は各々着替える。
先輩のぶかぶかのジャージ(寝間着)を脱ぎ、タンクトップとセーターを着てみるが「···············やっぱり、」と俺は呟く。
案の定、セーターはぶかぶかで手がすっぽりと隠れてしまい、鎖骨ら辺が空いている為黒のタンクトップが見えている状態だ。
一応先輩に「どうですか?」と尋ねてみると、先輩は目をキラキラと輝かさせて「か、可愛い·····ッ、、怜···お願いだ。写真撮っていいか?」と、本気で意味不明な事を言ってくる。
「はぁ?」
可愛いってなんだ·····いや、それより写真って、、、本当に先輩はどーしたんだ?
俺の風邪がうつって熱でもあるのか??·····かなり心配だ。
「写真いいだろ?な?」
人の心配をよそに余りにも執拗いので「はぁ·····こんなの何処が良いのか分かりませんが、どうぞ」と、俺は呆れながら返す。
すると「やった!」と、先輩は何がそんなに嬉しいのか目が死んでいる俺を携帯で撮り始める。
(·····これ、あの人への片思いを拗らせておかしくなったのかもしれない)
うん、絶対そーに違いない。
てか、それしか考えられないな、、、、
αは良家が殆どで地位も高い分、決められた許婚と結婚するのはよくある話らしい。
先輩も多分そんな感じで、あの人となかなか結ばれなくて········と考えると可哀想に思えてくる。
早く、早く·····分家の人達に諦めてもらって、あの綺麗な人と幸せになってもらわないと。
これ以上は先輩が壊れてしまうかもしれないし、、、いや·····既に行動がオカシイし··········。
写真を撮り終えて満足した先輩はというと白のTシャツと黒のジャケット、グレーのズボンに着替えて、一見シンプルな服装で何処にでもある形だが、先輩が着ているだけでファッションショーのステージを歩いても違和感を感じさせない。
流石、イケメンは違うな·····と思う。
「朝ご飯は向かいながら何処かで食べようか」
鞄に色々仕舞いつつ先輩は言い、俺も「そーですね、朝ご飯がお昼ご飯になりそうですが」と笑って返す。
「そうだな、怜は何食べたい?」
「オムライスが食べたいですっ」
「はははっ、オムライスって怜は言う事も可愛いな」
そんな会話を続けながら二人が出掛けたのは、起きてから一時間後の事だ。
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