北海遠征

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「で、だ。オレはこれからこの網を持って沖まで出る。ふたりは両端にあるロープを持って浜で待機していてくれ。ロープが限界まで出たら手を振って合図してほしい」 「分かりました」 「じゃあ行ってくる」  穏やかな波の上をちゃぷちゃぷと音を立てて舟が進む。オールを漕いでゆっくりと沖合に出ると、すぐに足元の砂は見えなくなり、深さも分からなくなった。  シエナ王国の王都はズーハ湖という美しく大きな湖の湖畔に作られた街だ。当然、アストロにとってズーハ湖は庭のようなものであり、幾度となくその沖合に舟で出ていた。その時はそれほど怖くはなかった。  だが、海というのはどうだ。  海には巨大なイカやクジラの魔物が居るらしく、アストリア人にとって海というのは畏怖の対象である。西海岸では隣の大陸へ進出しようとした冒険家が幾度となく襲われたという。  いや、北海には居ないと踏んでいる。  魔物は温暖な地域にしかいないはずなのだ。  王国の資料室にそう書いてはなかったが、目撃例や生態から推測すると魔物と呼ばれる程の大きさになった個体は南にしか出現していないのだ。
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