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「行くよ、キラリ」
「うん」
降り立った駅は、私たち以外に数人しか降りる人がいない。
鳥のさえずりさえ、ハッキリと聞こえるぐらい静かな場所だった。
改札を抜けると目の前に広がる畑や小さな森、柔らかな春の陽ざしの中で、潮をまとった風が流れてくる。
都会の喧騒から遠ざかるにつれ、電車や高速バスの中から見える風景は少しずつ緑に変わっていった。
この小さくて穏やかそうな町。
ここは、確かに昔ママが住んでいた町なのだろう。
ママはスタスタと迷うことなく角を曲がっていく。
歩き出す背中は何だか戦いに出向く戦士みたいな意気込みを感じた。
ママは緊張をしているのだ。
十二年ぶりとなるママの両親との再会に。
「やっぱり、連絡してから来れば良かったんじゃない? もしかしたら、留守にしてるかもしれないし」
「大丈夫、いるはずよ。それに、電話じゃ用は足りないし。結局、会って話さなきゃなんないことだからさ」
昨日から、ずっとこの調子。
ママはどこか、おかしかった。
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