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――昨日、学校から帰ったらママが家にいた。
いつもは仕事の兼ね合いで、十八時過ぎに帰ってきたり、時にはもっと遅くなることもあった。
バリバリの営業マンのママにとっては、金曜日にこんなに早く帰ってきてることなんかなかったのだ。
泣きはらしたような真っ赤な目をしていたから、何かあったのだということはわかった。
「ママ、仕事でなんかあった?」
「仕事じゃないけどねえ。あった、あった。なんか、すっごいことがあった」
あーあ、とため息をつきながら鼻をズズッと吸い上げて、それでも足りずに今度はティッシュを手にしてズビビっと噛んでいた。
「明日、千葉に行くよ、キラリ」
「え? どこ? ランド? それとも、水族館とか?」
「どっちも違う、あんたにとって千葉といえばそういうとこなのね」
そっか、と微笑んだママは、ふううっと大きく息を吐き出して。
「九十九里の方にあるママの実家に行くのよ」
「実家……? え? 実家!?」
あれ? ママ、言ってたよね?
実家はもうないんだって。
ということは、多分、私にとってのおじいちゃん、おばあちゃんはもういないんだろうって。
ママがその話をした時は、とっても素っ気なくて、子供心に聞かない方がいいんだって思っていたけれど。
「ママ、実家あるの?」
「多分」
「ってことは、おじいちゃんとかおばあちゃんとかも、いたり……?」
「生きていれば、ね? 多分、おばあちゃんは生きてる。今日、電話したら元気そうな声してたし」
「話したの?」
「いや、話したというか」
どうも話がしどろもどろになるママに詰め寄る。
「私のことは知ってるの? おばあちゃんに会いに行くって伝えたら、なんて言ってたの?」
見たことのないママ以外の身内が気になって仕方がないのに。
「まあ、あんたのことは生まれた時に見せてるし。ただ、いや、あのね? 今日のところは、生存確認でかけただけで。……、その、非通知で、……ワン切り、で」
最後は聞き取れないくらいママの声は小さくなった。
怒られた子供の言い訳みたいに、しどろもどろだ。
「それ、いたずら電話じゃん?」
「違うわよ! 話そうとしたけど、切っちゃっただけだし」
「じゃあ、かけ直そう? 明日行くこと伝えないと」
「いいの! 大丈夫なの! 会って話さなきゃなんないんだし、どうせ」
子供のようにむくれた顔をしたママに、それ以上何も言えなくて。
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