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――そうして、今朝早く電車と高速バス、そしてまた電車を乗り継いで四時間近くかかって、ようやくこの町に辿り着いたのだ。
途中の車窓からも見えたけど、ここは海が近い。
普通に歩いていても潮の匂いがする。
私は、今日なぜこの町に来たのか、よくわかっていない。
急に私と祖父母を合わせてみたくなったのか?
昨日ママが泣いていたのはなぜなのか?
なぜ、今まで私に祖父母の存在を隠していたのか?
なにも言ってくれないママの背中をただ追いかけるしかなかった。
「あそこ、なの」
青い屋根の小さな平屋の家。そこに掲げられた白いトタンの看板には『シバタ駄菓子店』とはげかけた黒色の文字で書かれていた。
「ママの実家?」
私の質問に、無言で頷くママがその店先で椅子に座る初老の女の人をじっと見ていた。
一目でわかってしまった、少しママに似てるんだもん。
佇む私たちの存在に、向こうも気づいたのだろう、ふと顔をあげてママをじっと見ている。
ママの背中に隠れて私もおばあちゃんを覗き見た。
二人とも何も言わないその様子に、ただならぬ緊張感を感じる。
「何しに来たんだい?」
ようやく口を開いたのは、おばあちゃんだった。
「あ、の」
「お客さんかい? だったら歓迎するよ、いらっしゃいませ。何がほしいんだい?」
ママの肩が、握りしめた拳が、震えていた。
泣いてるんじゃないかって、思った。
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