六月十三日月曜日 晴天「ハジマリの日」

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「柴田さんは、ご家庭の事情で三ヶ月ほどうちの中学に通うことになります」  家庭の事情が何なのかを、誰も突っ込んで聞いてきたりはしないことにホッとする。 「駄菓子屋の柴田さん家のお孫さんだそうで、今はそちらに住んでいるそうです。わからないことが多いと思いますので、皆さん柴田さんに色々教えてあげてくださいね」  はーい、とあちこちから相槌(あいづち)のような返事が飛んできて一安心した。  大丈夫そうかな? 受け入れてもらえそうな気がする。 「では柴田さん、自己紹介をしてください」  え? 自分で?  チラリと先生を見たらニッコリ微笑んで、私の名前を黒板に書き始める。 【柴田希星】  その文字に皆がざわついている。  わかってる、読めない、ってことだよね? 「柴田(シバタ) 希星(キラリ)です。都内から転校してきました。三ヶ月ほど、こちらでお世話になります。わからないことだらけですので、色々と教えてください」  増田先生の紹介から言葉を借りて、無難に自己紹介をしたつもりだった、けど。  ざわつく教室、耳をそばだてるとヒソヒソと『え? キラキラ』、『マジ? キラキラじゃん? ウケる』とあちこちで失笑しているような声が聞こえてきた。  途端に、嫌な気分になって唇を噛みしめた。
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