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え? あの男の子、キラって名前なの?
初めて自分以外の名前でキラという響きを聞いて、さっきの彼の顔を改めて見つめた。
あれ? 待って? 確か、あの顔は。
「あー、今朝の犬ド」
彼を指さして、途中まで言ってしまってから我に返って口を塞ぐ。
「ちげえって言ってんだろ!」
彼は顔を真っ赤にして立ち上がり、私に抗議したいる。
周りは、私たちのやり取りに興味津々のようで。
「キラってば、もう友達になったの?」
なんて楽しそうだ。
どこをどう見たら友達のように見えるの!?
「そうなのね? じゃあ、柴田さんは青山くんの隣に座ってもらいましょうか」
先生まで、私と彼がもう友達だと勘違いし始め、隣の席に座るように促された。
さっきのショートカットの女の子が、後ろにあった机を、彼の隣にセッティングしてくれた。
ああ、最悪だ……。今朝の第一声を悔み始める。
そんな私の様子に気づくことなく、席をピッと整えてくれた彼女は、こちらに向き直りニコッと微笑んだ。
「クラス委員の尾崎 花音です。私も、キラリちゃん家の近くに住んでるの。どうぞ、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
面倒見の良さそうな人懐こい笑顔にホッと一安心したら、隣から大きなため息と。
「カノン、俺と席代われよ。お前が面倒見たらいいじゃん」
声の主は青山くんだ。
不貞腐れたような顔をして、こちらをチラリと見た。
とても感じの悪い人だと思う、犬ドロボーのくせに、いや多分違うんだろうけども。
「キラ! あんた、いっつも真希さんに世話になってんだから、恩返ししたら?」
真希さん? 確か、うちのおばあちゃんの名前だ。
「この辺の子供たちは、みーんな真希さん家の駄菓子で育ったの。キラなんて隣に住んでるから、駄菓子だけじゃなくてご飯まで時々ね? だから、キラリちゃん、キラに遠慮なんかしなくていいの。嫌なことされたら、真希さんに言いつけちゃえ!」
「チッ、カノン! 余計なこと言うな!」
青山くんの舌打ちにひるむことなく、尾崎さんはアカンベエと舌を出しやり返して、席に戻っていく。
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