六月十三日月曜日 晴天「ハジマリの日」

7/14
前へ
/101ページ
次へ
 え? あの男の子、キラって名前なの?  初めて自分以外の名前でキラという響きを聞いて、さっきの彼の顔を改めて見つめた。  あれ? 待って? 確か、あの顔は。 「あー、今朝の犬ド」  彼を指さして、途中まで言ってしまってから我に返って口を塞ぐ。 「ちげえって言ってんだろ!」  彼は顔を真っ赤にして立ち上がり、私に抗議したいる。  周りは、私たちのやり取りに興味津々のようで。 「キラってば、もう友達になったの?」    なんて楽しそうだ。  どこをどう見たら友達のように見えるの!? 「そうなのね? じゃあ、柴田さんは青山くんの隣に座ってもらいましょうか」  先生まで、私と彼がもう友達だと勘違いし始め、隣の席に座るように促された。  さっきのショートカットの女の子が、後ろにあった机を、彼の隣にセッティングしてくれた。  ああ、最悪だ……。今朝の第一声を(くや)み始める。  そんな私の様子に気づくことなく、席をピッと整えてくれた彼女は、こちらに向き直りニコッと微笑んだ。 「クラス委員の尾崎(オザキ) 花音(カノン)です。私も、キラリちゃん家の近くに住んでるの。どうぞ、よろしく」 「こちらこそ、よろしくお願いします」  面倒見の良さそうな人懐こい笑顔にホッと一安心したら、隣から大きなため息と。 「カノン、俺と席代われよ。お前が面倒見たらいいじゃん」  声の主は青山くんだ。  不貞腐れたような顔をして、こちらをチラリと見た。  とても感じの悪い人だと思う、犬ドロボーのくせに、いや多分違うんだろうけども。 「キラ! あんた、いっつも真希さんに世話になってんだから、恩返ししたら?」  真希さん? 確か、うちのおばあちゃんの名前だ。 「この辺の子供たちは、みーんな真希さん家の駄菓子で育ったの。キラなんて隣に住んでるから、駄菓子だけじゃなくてご飯まで時々ね? だから、キラリちゃん、キラに遠慮なんかしなくていいの。嫌なことされたら、真希さんに言いつけちゃえ!」 「チッ、カノン! 余計なこと言うな!」  青山くんの舌打ちにひるむことなく、尾崎さんはアカンベエと舌を出しやり返して、席に戻っていく。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加