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何度も通ってくれている常連のお客さんだった。
「どうして…どうして言ってくれなかったんですか?」
私に何を言われているのか理解していない表情だった。
「どうしてって?
自意識過剰かもしれないですけど、私も一時期魔術師としては有名でしたから…。
変に目立って、店に迷惑をかけたくなかったんです…まぁ私が居たところで誰も気が付かないですけど…」
涙を流しながら彼女の手を握る。
「来てくれて、本当にありがとう…ございます…」
そんなに嬉しいのか…といった表情で驚いている様子だった。
それからは、大魔術師百合沢静香に幼い頃からずっと憧れて魔術を必死に勉強していた事や彼女の魔具を愛用してシェフになった事、実は人気ナンバーワンメニューが彼女の為に考案された事など、会う機会があれば伝えたかった想いの丈を打ち明けた。
「あははははは…」
何だか彼女は照れくさそうに頭をポリポリかいている。
「そんな事を言われるとは思っていなかったので、凄く驚きました…。
嬉しいです…ありがとうございます…」
お礼を言うのはこっちだ。
「でも、疑問に思っていた事に凄く納得がいきました…」
一人で納得されても困るので、彼女の言う「疑問」について確認してみる。
「疑問って何ですか?」
何とこたえるのか少し考えている様だった。
「超有名人長谷川渚が何でこんな寂れた魔具店に来てくれたのだろう…とか、何で予約のなかなか取れない有名店の一番人気看板メニューがピンポイントで私の好物の組み合わせなのだろう…とかです。
実は、私も長谷川渚に励まされていたので、凄く不思議な縁だと思います」
互いに相手の好意に気付かぬまま憧れを抱いていたというのなら、確かにそれは不思議な縁だと思う。
「励まされていた?
それって…?」
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