9人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
私が作ったものの中でもかなり古い作品ばかりだが、普通に考えればとっくに寿命を迎えていても不思議ではない。
だが、殆ど使っていなかったかの様な状態の良さで、まだまだ現役で使えるものばかりだ。
私が封じた魔力は空になっているとは言え、どんな使い方をすればこんな良いコンディションのまま使い続けられるというのだろうか…。
「キレイに使ってもらえて、こうして人の役に立っているかと思うと作った私も嬉しいです…」
それぞれ使いやすいようにメンテナンスをする。
「フライパンと鍋は熱伝導のよさと熱ムラの少なさ、包丁は切れ味をそれぞれ魔術で向上させておきました。
勿論空になっていた魔力も補充しておきましたよ。
試しに使ってみてください」
彼女はとても嬉しそうに、それらを持ってキッチンへ走る。
「凄い…。
まるで身体の一部になったのかと思うくらい使いやすいです」
喜んでくれた様で良かったと思ったのも束の間。
五分くらいが経過した頃、キッチンからうめき声が聞こえてきた。
「痛…」
何事かと思って行ってみると、彼女の指が真っ赤に染まるカッティングボードの上に転がっている。
どうやら、包丁で指を切ったらしい。
私は急いで彼女の手を握り、切断面を舐める。
唾液に含まれる魔力で止血し、切断した指を元の位置にくっつける。
最後にラテン語で呪文を詠唱し、治癒魔術を発動させる。
「いくら使いやすくなったと言っても、まだ慣れていないのですから無茶はダメですよ…」
私も切れ味を上げ過ぎたと反省した。
「凄い…」
何度も拳を握ったり開いたりして、痛みが消えている事に感動している様だった。
「いや、話を聞いてください…」
人差し指と中指をそろえた二本で彼女のオデコを小突く。
「私が居なければ、大怪我したままでしたよ?」
彼女は笑っていた。
「ありがとうございます。
それにしても凄い切れ味ですね…これで仕事も捗りますよ」
この人は本当に分かっているのだろうかと不安になる。
最初のコメントを投稿しよう!