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だが彼女の性格はとても明るく、私が思い描いてきたものとは明らかに違っていた。
「危ないので、もう少し切れ味を落としましょう…」
ため息をつきながらそう言った私をみて、提案を拒否した。
「私が気を付ければ良いのです。
せっかくこんなにも使いやすくしていただいたのですからこのまま使わせてください」
まぁ彼女がそう言うのなら包丁はそのままにしておこう。
スペックを向上させ過ぎた私が言うのもなんだが、こんな無茶な使い方をされている魔具がどうしてここまで良いコンディションなのかが謎である。
「席に戻って待っていてください」
再度テラスに出ると先ほどより潮風が心地よく、磯の香りが心を和ませる。
少し心配ではあるものの、一流のシェフなのだから道具の使い方は私よりも心得ているだろう。
「お待たせしました」
アクアパッツァに若鶏のバロティーヌとサルサベルデ…。
短時間でこんなお洒落な料理を用意してきてくれるなんて、本人の才能であって私の魔具は大して関係ないのではないかと思う。
「美味しそうですね…」
ヨダレが…。
「こんな料理、メニューにありましたっけ?」
何度も足を運んでいるけれど、メニューにその名を見た事はなかった。
「あ…いえ、店では出していません。
今考案中のメニューですので、味見してみてください…美味しくないかもしれませんが…」
いや、謙遜にも程がある。
「あなたが作っているのです、美味しくないはずがないですよ?」
彼女は笑っている。
「そう言ってもらえるのは大変嬉しいのですが、美味しいと思ってもらえるなら、それはあなたの魔具のおかげです。
私は料理中に指を切断させてしまうようなド素人ですよ…シェフ失格です」
ブラックジョークだな…。
「いや、それは…」
いかん、話題を変えなくては…。
「でも安心してください、私の指は料理には入っていませんので…」
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