第五話 魔力補充とメンテナンス

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 待てよ、そうなると私が好きだと言った材料を入れた事になるが、客の好みを把握した上で献立を考えているのではないだろうか?  一元客には無理かもしれないが、常連やある程度好みが分かっている客には調整があるのかもしれない。 「あとは、おろしニンニク、アンチョビ、ケッパー、白ワインビネガー、それから…」  彼女の存在を知るまでの私は、そこまで食にこだわりを持っていた訳ではなかった。  ネット記事の取材で好きなものを問われた時「瀬戸内レモン」と「讃岐サーモン」だとこたえたのは、ただの思いつきだった。  調理魔具を作って販売していたので、固有の名でこたえた方が美食家っぽくて自分の商品に箔が付くのではないかという浅はかな考えだった。  しかしその記事を読んだ親戚や友達がお中元やお歳暮でその二つをよく送ってくれる様になり、せっかく私の為に選んでくれた物を食べない訳にもいかなかった。  美味しくいただいているうちに好物になったのだ。  だが別に美食家になった訳でも、グルメになった訳でもなく、ただその二つが好きになっただけである。  食生活は人並みで、美味いものは美味い、不味いものは不味い…その程度の認識しかなかった。  私がリベルタの予約を取ったのは、世間が囃し立てる人気店が近くにあって、気になっていたからで、話のタネに食べてみたかったと言う表現の方が正しいのかもしれない。  しかし実際来店してみると、想像をはるかに凌駕した料理が出てきたので食に対する概念が変わってしまったのだ。 「世界で見ると、シチリア産のレモン果汁が結構日本人の味覚に合う様です。  瀬戸内レモンはそれも考慮されて作られているので、日本人に受け入れられやすくてイタリアンにも相性が良いのでしょうね…」  彼女の料理が素敵な理由が分かった気がした。  予定通りバロティーヌにサルサベルデをかけて、一口いただく。  美味し過ぎて何も言えない。  ノーコメントだと言うのに、私の表情をみて彼女はガッツポーズ。  次にアクアパッツァ、こちらも口に入れただけで幸せになれる味だ。  魔力も回復して、また頑張ろうと思える。  彼女が料理を作り、それをいただく私は回復した魔力で彼女の悩みを解決する…実に良い関係ではないのかと思えた。
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