9人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
第六話 大魔術師と注文の品
百合沢静香が私の注文した魔具を持って、店に来てくれた。
愛用している調理魔具もメンテナンスしてくれると言うので彼女に見せ、魔力も補充してもらった。
「試しに使ってみてください」
そう言われて、彼女を待たせたままキッチンに入る。
「凄い…。
まるで身体の一部になったのかと思うくらい使いやすいです」
本当に私が使っていた包丁なのかと疑う程に凄い切れ味だった。
野菜、肉、魚、例外なく力要らずで、一瞬にして切断されていく。
道具は手入れしないとダメになるし、使わなければ劣化するだろう。
それと同じで、普通ならもう寿命で買い替える時期であろう魔具も、お気に入りだったために質の悪い私の魔力を補充し、無能と言い続けられた使えない魔術で手入れしていた。
切れ味は落ち、道具としてはかなり使いにくくなっていたが、私の人生を変えてくれたそれらを容易に買い替える事がどうしてもできなかった。
魔具は魔力の無い者や魔術が使えない者が使う道具であり、基本的には封じられた魔力が尽きると、そこからは急激に劣化が進行する。
例えばこの包丁は魔力が空になれば、切れ味が落ちるだけでなく、刃毀れし、最後は物理的に折れる。
魔力を補充する事で劣化の進行を防ぎ、コンディションを保つ事ができたが、それが私の限界だった…。
今回、再び彼女の魔力を得たこの包丁は復活したが、それと同時に魔術師としての格の違いを見せつけられる事にもなった。
私がどれ程努力しても到達できなかった場所…。
世間ではイタリアンのシェフとして知られている私だが、それだって魔具のおかげだ…。
彼女が居なければこんなには成功していない。
最初のコメントを投稿しよう!