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そんな風に思った時、息子の言葉が頭をよぎる。
「不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…」
何もできない無能…なのではないか?
家族ですら認めてなどいないと言うのに、世間は私の何を知っていると言うのだろ…。
どうせ一時のブームだ、彼等もすぐに飽きるだろう。
うああああああああああ…。
急に自分が情けなくなり、叫びたくなった。
「痛…」
我に返ると、カッティングボードの上に細長い何かが転がっていたが、それが自分の指だと認識できるまでには数十秒の時間を要した。
出血の止まらぬ手を彼女に掴まれ、切断面を舐められる。
何が起こっているのか分からないまま切れた筈の指が元の位置に戻される。
彼女の口から何語か分からない呪文が聞こえたかと思えば、どんどんと傷が癒えていく。
「いくら使いやすくなったと言っても、まだ慣れていないのですから無茶はダメですよ…」
手は完全に指を切る前の状態に戻り、痛みは全くなくなっている。
「凄い…」
やはり彼女は私と違って本物の魔術師だ。
「いや、話を聞いてください…」
感動で、何も言えずにいるとオデコを小突かれる。
「私が居なければ、大怪我したままでしたよ?」
彼女は少し怒っていた様だったが、私は話についていけず、笑う事しかできなかった。
不注意で切ってしまったが、切れ味は私の指で証明された。
「ありがとうございます。
それにしても凄い切れ味ですね…これで仕事も捗りますよ」
私が魔力を補充していた時とは切れ味が別物だ。
流石としか言えない。
「危ないので、もう少し切れ味を落としましょう…」
何をバカな事を言っているんだ、こんなに使いやすいと言うのに、また使いにくい包丁に戻すとでも言うのか?
「私が気を付ければ良いのです。
せっかくこんなにも使いやすくしていただいたのですからこのまま使わせてください」
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